走行装置(戦車工学~理論と設計の基礎~) | 軍曹!時間だ!…

走行装置(戦車工学~理論と設計の基礎~)

1・1・6 走行装置

 

 戦車は単に無限軌道を有するものと無限軌道と車輪とを共有するものとがある。

 無限軌道装置は履帯、起動輪と誘導(遊動)輪、履帯緊張装置、ばね装置の付いた下方転輪すなわち懸架装置及び補助転輪よりなる。

 

 無限軌道装置の本質的長所は、あらゆる地形を運行し得る事、不整地運行の際に抵抗が少ない事、および粘着力が大きい事等で、その短所は効率が低い事、寿命が短い事、重量が大である事、走行中騒音を発すること及び旋回が困難である事等である。

  懸架装置の特性いかんは戦闘上重大な問題であって、全て現代の高速戦車は弾力性のある懸架装置を備えている。

 車体の動揺と弾力性の程度は戦車より射撃する場合の正確さに影響するものである。

 種々の地形を運行する際の車体の動揺は極めて多種多様であるが、これらの動揺は縦横軸に対する角動揺《ピッチング、ローリング》と、垂直動揺《バウンディング》の2つに分けることが出来る。

 射撃の命中率に最も悪い影響を与えるものは縦方向の角動揺《ピッチング》である。というのは、この場合、目標は照準線より外れてしまうからである。直線的な動揺は命中率には大して影響を及ぼさない。

 戦車の主要火器を収める砲塔の位置は、射手が最も好都合の条件におかれる様に車体動揺の分析を基礎として設計決定すべきである。一般には戦車の中央部がこの条件に当てはまるところである。

 操縦手は前方に座らなければならないから、戦車内においての各部の配置は非常に制限され、これを考慮してあらかじめ定めねばならない。発動機は多くの場合後方に配置される(ある種の軽戦車では後方の袖部に配置されたのもある)。重心を中央部に維持するために、伝動装置は前方に配置される。登り勾配または傾斜した時の安定を保つために、重心はなるべく低くなければならない。横方向に対しては重心は戦車の左右対称面の中央に位置させるべきである。

 射撃に対する悪影響を減少させる見地から動揺の振幅はなるべく小さく、かつ周期が大きく、持続性をなくする事、すなわち速やかに動揺を減衰せしめる事が望ましい。

 これらの要求から緩衝装置を使用する必要が起こって来る。

不安定な走行もあるいは軽快な走行も、一にばね下重量により左右されるものである。

現代の戦車の走行装置の重量は戦車の総重量の20~30%を、また自動車では10~15%を占めている。装軌車両の走行装置においてばね下重量は、走行装置全体の重量の30~50%に当たる。この事は装軌車両の走行装置が未だ完全でない事を示すものである。

  

 戦車の懸架装置は作動方式よりして機械式と水圧式または空気式があり、構造よりして釣合梁式、直立蔓巻ばね式、あるいは混合式懸架装置が用いられる(後述の走行装置の章の懸架装置の項参照)。

機械式懸架装置は最も確実で製作ならびに組立が最も簡単であるが、重くかつ弾性に乏しい。水圧式及び空気式の懸架装置は一層弾力性に富み、不整地を走行する場合も戦車の重量を良好かつ容易に配置し、機械式懸架装置と比較して若干軽いが比較的破損しやすく、作動に確実性が乏しいから頑丈にする必要があり、いきおい特殊の装置を取り付ける必要がある。これらの作用は温度により左右され、故障あるいは破損を発見する事は時としては非常に困難である。

釣合梁式は槓桿《梃子(てこ)と同意語、一方の端を構造体に固定した梁(はり)や肱木(ひじき)》組み合わせであるから他の方式に比べて凹凸をよく吸収する。近頃は混合式懸架装置が非常に普及されている。また最近は懸架装置の主要部を車体内に取り付ける傾向がある。無限軌道の前後の傾斜部の傾斜角はなるべく小さくする事が必要であるが、同時に障害物を克服する可能性を考慮して、前部の登り傾斜角は36°~42°とし、後部の角は17°~23°とする。

不整地や切株の突出している原野を走破する場合、これらの凹凸はその配置からいって2つの履帯の間を通過せねばならぬから、地面と戦車の底部との間に一定の間隙すなわち一定の距離を保つようにする。この間隙の寸法は戦車の型式によって異なってくる。

 小型戦車の間隙 250~300mm

  軽戦車の間隙  350~400mm

  中戦車の間隙  450~500mm

  重戦車の間隙  500~600mm

※小型戦車は訳者注で原文直訳では「超軽戦車」となるが、小型戦車と意訳している。 

※間隙は地上高の事である。

 

 無限軌道の起動輪と誘導輪とはその半径の2/3以上は車体の端から出しておくべきである。これは戦車が垂直障害や、急激な登り傾斜等に遭遇した場合、車体が障害物に引っかからぬ様にするためである。

 戦車の使用中に目方の変化する様な荷重(燃料及び弾薬類)を積載するには、戦車の重心に対して出来るだけ対称となる様に配置し、これらを使用して行った場合に重心の位置が変わらない様にする。

諸装置の配置を設計するに当たっては、戦車の重心の位置において考慮するほか、乗員の作業を便利にする事もあらかじめよく考慮しておかなければならない。