イスラエル・タルの戦車哲学
実戦場において任務達成のために最も重要なことは「生き残ること」である。
「タリク」ことイスラエル・タル将軍の言葉だった。
実際にはヘブライ語で述べたものを日本語に翻訳しているので言い回しは色々あるようだ。
たとえば月刊戦車マガジン1987年7月号に掲載されている記事「メルカバ戦車を見る①」には、
(38頁)
「実戦において最も重要なことは生き残ることであり、生き残り性の向上によって火力、機動力を発揮できるが、その逆はあり得ない。」
(41頁)
「実戦場裡において最も重要なことは生き残ることであり、生き残り能力の向上により火力や機動性の向上発揮も期待できるが、その逆はあり得ない。」
微妙に違う。
「実戦場裡」ってなんだ?誤謬かな?と思ったら「場裡(じょうり)」って意味のある言葉だった。「実戦-場裡」で「実戦闘の場においては」というような意味であろう。
この記事の著者は「大和武」氏である。
多分、「やまとたける」と読むのだろう。
同記事は大和氏が前年(1986年)5月にタル将軍からのお招きにより、イスラエルを訪問した際、見学させてもらった時のものであり、2号にわたって掲載されている。メルカバ工場見学の前日にはタル将軍との懇談をしており、その時の内容は戦車マガジン1986年9月号に「タル将軍に戦訓による戦車哲学を聞く」として掲載されている。
同氏は1985年秋、東京において来日中のタル将軍と懇談している。
“ともにいわば戦車に半生を捧げた男どうしとしての友情、かつほぼ同年輩ととしての心安さもあって大いに意気投合、別れ際には「この次は是非イスラエルでお会いしましょう。メルカバのことなら何でもお見せしますよ」”
と、「タル将軍に戦訓による戦車哲学を聞く」に記述されており、それが実現したようだ。
なお、大和氏と同様に戦車関係の記事を書いていた「二木巌」氏が同行している。
大和氏、二木氏共にペンネームであり、大和氏は他の記事でチーフテンやレオパルトの操縦体験をしているところから、元日本帝国陸軍少佐、陸上自衛隊での最終階級は陸将補だったK氏と推測、二木氏は二つの木「木木」だから某重工の戦車開発者であろう。
というわけで、メルカバ戦車に関しての信頼性のある資料は、戦車マガジン取材班が外国報道陣としては初めてメルカバ戦車生産ラインの視察許可がおりたという取材記事「世界で初めて メルカバ生産工場を見る(戦マガ1980-10)」及び上記「メルカバ戦車を見る①(戦マガ1987-7)」及び「メルカバ戦車を見る②(戦マガ1987-8)」を主軸に下記の四項目で検証してみたい。
【1】 生存性(メルカバ基本理念)
【2】 機動力
【3】 火力
【4】 防御力