パンター戦車の操向装置(その1)
いかん
気づけばすでに1月も終わろうとしているな。
という訳で、今調べている「戦車の操向装置」つまり、ステアリングシステムの一例としてドイツのパンター戦車の操向装置を紹介したいと思う。
実は、日本陸軍九七式中戦車の操向装置がやっと理解でき、それに引き続く形で九七式に似た操向装置のパンター(PANTHER)戦車の仕組みについて調べていたわけなのだ。本来は九七式中戦車のはずだったのだがとりあえずパンターを先にしてみた。
資料は大日本絵画から1999年1月発行された「パンター戦車」(著:W.J.シュピールベルガー 訳:高橋慶史)だ。
実は、以前読んでも全く理解できなかったのだが、九七式中戦車との差異で理解できるのではないだろうかと期待したのだ。
やはり理解できない。
理解できている人いるのだろうか?
では以下に高橋氏訳によるところの操向装置の説明を引用する。
なお、[ ]内はルビである。
パンター戦車 62頁右段
操向変速機[ステアリングトランスミッション]は、回転トルクを伝える主傘歯車[ベベルギア]。左右の遊星歯車[プラネタリギア]機構、ステアリング用傘歯車[ベベルギア]、2組の平歯車[スパーギア]とステアリングクラッチ付きステアリングブレーキ2基から構成されている。左右の遊星歯車機構内部の中央には太陽歯車[サンギア]があり、これらは別個に、あるいは一緒にブレーキによって停止させることができた。急旋回を容易に行うため、左右の履帯を別個に停止させられるようになっており、それにはまずステアリングブレーキを解除してステアリングクラッチを切り、それから左右のソリッドディスク式メインブレーキをかける、という手順をとった。これと同時に、ステアリングブレーキを解除すると、遊星歯車機構中央部の太陽歯車[サンギア]が、コントロールドライブからの動力をステアリングクラッチを介して受け取って回転するようになり、平歯車をプライマリードライブとは逆の方向に回転させるのである。このスパーギアで駆動される履帯の回転速度も落ちて、戦車はそれぞれのギアの選択に対応して、一定の半径で旋回することになる。このように、ギアの各段につきそれぞれ一定の回転半径が定まることになるから、「シングル(単一)・ラディアス(半径)」方式と呼ばれるわけである。この形式の操向変速機は操作にほとんど力が要らず、通常の作動環境である限り、すべての状況に対応できた。
操向装置の図をどう見ても上記説明では理解できない。
どうも、ティーガーの操向装置の簡略板のようになっている。
ということで、英語板も見てみよう。
It consisted of a primary bevel gear drive, two epicyclic gears, the bevel gear control drive, two spur gear pairs and two support brakes each having a control clutch. The center solid gears in the epicyclic gearing could be arrested by the brakes either individually or collectively. In order to facilitate steering through tight turns each track could be halted by a solid disk brake, once the support brake had been released and the steering clutch disengaged. Also, by releasing the support brake a single center gear could be set in to motion from the control drive via a control clutch and a spar gear pair against the main driver's direction of rotation. The affected track would be slowed down and the tank would then make a single arc of a fixed radius for every gear engaged - hence the term "single-radius" steering.
This type of steering required little strength and could be used in all normal situations.
グーグルさんに訳してもらうと以下の通り
主なベベルギア駆動装置、2つの遊星歯車装置、ベベルギア制御駆動装置、2つの平歯車対、およびそれぞれが制御クラッチを有する2つの支持ブレーキから構成されていた。エピサイクリック歯車装置の中央のソリッドギアは、個別にまたはまとめてブレーキによって拘束される可能性があります。タイトな回転による操舵を容易にするために、支持ブレーキが解放されステアリングクラッチが解放されると、ソリッドディスクブレーキによって各トラックを停止することができる。また、支持ブレーキを解放することによって、単一のセンターギアを、制御クラッチおよび主歯車対を介して主駆動装置の回転方向に対して制御駆動装置から動かすように設定することができる。影響を受けるトラックは減速し、タンクはすべてのギヤが固定された半径の単一の円弧を作成します。したがって、「単一半径」ステアリングという用語が使用されます。
このタイプのステアリングはほとんど力を必要とせず、すべての通常の状況で使用することができました。
ふむ、訳者である高橋氏はおおむね正しい訳を行っているから著者の誤りという事になるな。赤字で示した部分が問題の記述であり、この方式はティーガーに搭載された「操向用動力装置」、つまり、操向用クラッチ、ブレーキやディファレンシャルをもつトリプルディファレンシャル方式、もしくはM4中戦車などに搭載されたクレトラック方式などの動力再生式の説明であり、パンターの操向装置(steering unit)は図を見る限り九七式中戦車同様に動力再生式ではない。
説明は次回だ