戦車のサスペンション(その6)ボギーの謎(混乱編)
さて
先回、ボギーの謎については別方向からもアプローチしていた。
まさか、あんなに明瞭な答えがあるとは思いもよらなかった。
しかし、当時の当事者たち(当時だけに)も用語の使用にかなり混乱したようで、他の教範等と見比べてみると非常に面白い。
M4A3中戦車のマニュアルである。
発行は1942年8月
M4A2よりも半年ほど前の物である。
SUSPENSION SYSTEM(懸架装置)の給油脂図である。
左側の赤線部に「Bogie Wheels」と記載されている。
良く見ると第3ボギーが前後逆に描かれている。
M4A4中戦車のマニュアルである。
発行は1943年1月
M4A2と同じ発行時だ。
M4A3と同様の給油脂図だが、第3ボギーがちゃんとした方向に訂正されている。ただし、転輪間隔が広い事が特徴のM4A4を示す図ではない。
この様に、M4A4の最大の外見的特徴は他の形式より車体が長いために各ボギー間が広くなっている。
図に反映されていないのは「面倒だから」いや、「効率を優先」したためだ。
ところがボギーの説明記述内にとんでもないことが書かれていた。
The bogies are the supporting and conveying unit, and are sometimes called trucks or suspensions.
あ・・・、あんだって?
【訳】
ボギーは、支持と運搬の機構であり、履帯またはサスペンションとも呼ぶ。
ボギー=サスペンション=履帯ってか。
困った・・・・・。
どこから「Tracks」が出てくるのか全くの謎である。
あえて言うならば「足回り(履帯込み)」=「ボギー」かな?
無理っす。
1944年のマニュアルでは遂に「Bogie:ボギー」の名称は消えた。
第23章
横置き筍バネサスペンション及び履帯(HVSS)
HVSSでは
「Bogie Wheel」が「Suspension Wheel」
第24章
縦置き筍バネサスペンション(VVSS)及び履帯
VVSSでは
「Bogie Wheel」が「Volute Spring Suspension Wheel」
と何とも投げやりな名称に変化している。
きっと誰も使わなかったんだろうな。
ってゆーか
横置きサス(HVSS)だって「Volute Spring Suspension」だよな。
縦置き(Vertical)と筍ばね「Volute Spring」を勘違いしたのだろうか?
豪華になった給油脂図は(Bogie Wheel) のままだ
転輪を持ち上げる工具は
「BOGIE WHEEL LIFT」のままだ。
しかし転輪、アーム、ブラケットの名称はすべて
「BOGIE」が「VOLUTE SUSPENSION」に代わっている。
?????
「VOLUTE SPRING SUSPENSION」じゃなかったか?
バネはどこ行ったんだ?
混乱の極みである。
おそらくだが、新型サスペンションが加わったのと、「サスペンション」に用語統一といった観点から、ボギーをサスペンションに変えたのだろうが、現場の戦車乗員などは普通に「ボギー」と呼んでいたのだろう。
経験上からも断言できる。
次回、ボギーの謎(日本軍編)