回想オレンジ電車(上)~省エネ車両、音に魅せられ~
「ブーン」。低い音が聞こえてきた。今年の夏休みのことだ。八王子市内の自宅で受験勉強をしていた市立横山中学3年の竹内鯛志君(15)は、カメラを片手に近くの「並木東踏切」に駆け足で向かった。目の前に迫る電車は「201系」。一瞬で走り抜けるオレンジ色の電車をファインダーに収めようと、シャッターを押し続けた。
「生まれて初めて乗った電車。小さい頃から身近にあり、思い出が詰まっています」。だからこそ、音で201系と分かるのだ。
音の正体は「チョッパ制御装置」。「省エネ電車」を掲げて開発された201系の核となったもので、旧型車両で使用されていた抵抗器と呼ばれる部品の代わりに特殊な半導体を使い、消費電力を抑えた。
「すごい電車が来た。カルチャーショックでした」と話すのは、三鷹車両センター副所長の大久保良雄さん(55)。整備士として初めて201系を迎え入れた時の感想だ。
それまで整備してきた電車は、回転したり、動くとガチャガチャ音を出したりする部品ばかり。故障も一目で分かった。整備といえば、摩耗した部品の交換や油を差す作業が大半だった。ところが、201系は今まで見たこともない半導体が整然と並んでいた。簡単なマニュアルはなく、分厚い資料を読み込みながらの試行錯誤が続いた。
大久保さんは「201系に育ててもらった。その後、新型車両が導入されても、戸惑うことはなかった」と語る。
旧国鉄で201系の設計責任者を任されたのは当時、入社5年目の松田清宏さん(63)。現在はJR四国取締役会長。初めて一から手掛けた電車だけに思い入れは深い。
「この電車に心残りがあるんです」。松田さんは静かに切り出した。
「乗り物は景色を見ながら乗るのが楽しいでしょう。でも、ドアの窓が高く、子供が背伸びをしないとよく見えないのです」。
電車の側面にあるドアの窓の下枠は、床から約1メートルの位置にある。3~4歳児とほぼ同じ高さ。「当時の接合技術は今と比べると未熟だった。満員電車でドアが中から強く押されると、窓が外れる恐れがあったため、こうせざるを得なかった」と松田さんは説明する。
一方、最新の通勤電車「E233系」では、窓自体が大きくなり、高さも79センチと1歳の子供と同じくらいの高さになった。
竹内君は小さい頃、おんぶやだっこをしてもらわないと、外が見えないことにもどかしさを覚えたという。それだけに、「自分で外が見えるようになった時、大きくなったんだなあ」と実感した。車窓からの景色は、成長したことの証しだった。
オレンジ色の車体で知られたJR中央線の201系車両が17日、完全引退する。31年間にわたって多摩地区と都心をつなぎ、通勤・通学客の生活を支えた。201系を愛する人たちの思いをつづる。
9/15発行、読売朝刊多摩版より。
画像は、201系を見つめるJR四国松田会長




