2019/06/23 【法学】民法第95条 | パムのてきとーブログ

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条文

(錯誤)
第95条
 意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。
 ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。



制度趣旨

端的に「表意者の保護」であると説明する書籍もあるが、正しくない。
 「約束は守られるべきだ」
というのが一般道徳の要求する大原則であり、民法もそれに拠っているからである。
もっとも、なぜ約束が守られるべきかというと、
 そうしないと約束が当然守られるだろう
という相手方の期待が損なわれ、そのような事態が横行するようになると社会における取引の安全そのものが揺らぐからであるが、
そのように言うためには契約の当事者双方が常識の範囲内で誠実かつまともに合意を形成しているということが前提となる。
しかし、それが
 客観的・外形的に見て(当事者の合理的意思解釈として)「まとも」な合意とは言えないであろう
という限定的・例外的な状況においては、
 そのような当事者を契約の拘束から解放することも認められてしかるべきであろう
という価値判断が働くであろう。
しかしこれはあくまでも
 「約束は守られるべきである」
という原則に対する例外であるので要件として法律行為の要素における錯誤に該当し
かつ表意者に重大な過失が無いものに限定されているのだと解することができる。

以上の観点からは、表意者保護と取引の安全の調和こそが本条の趣旨であると理解されなければならない。
意思主義(本文)と表示主義(但書)の調和·調整と言い換えることもできよう。
後に述べるような要素の錯誤とは何か、ではなく、保護されるべき表意者とはどのようなものかという問題こそが
 ――たとえ判例学説のいずれに立つにせよ――
95条をいかに解釈・運用すべきかという問題の本質なのであり、
 取引の経緯や社会的関係、
 当該取引社会における慣行、
 さら政策的判断なども判断材料に加えつつ、
当該表意者がどのような状況に置かれていたかという詳細な認定を基に絞りをかけていかなければならないのである。
法理論はそのための説明方法に過ぎない。


「意思表示」とは

意思表示参照。
  https://00m.in/pPZ7Y
但し、本条における意思表示の読み方には二通りがありうる。
すなわち、
 第一は意思表示は……錯誤があったときは無効とする、
ということは、
 外部に表示された意思に錯誤が含まれているのでなければ無効とはならない、
という読み方である。


第二は、
 結果としての意思表示が錯誤によって引き起こされたものであればこの要件は一応満たす
とする読み方である。
さらに細かくこの立場を分けると、
 (a)錯誤を相手方が知っていたかどうかを問題とすべきとする立場と、
 (b-1)客観的に見て錯誤に当たる事実が表示されていたか
 (b-2)錯誤が錯誤として相手方に分かりうる形で表示されていたか、
を問題とすべきとする立場に分かれうる。

この違いは、
例えば表意者の意思表示によることなくして表意者が錯誤に陥っている事を相手方が何らかの態様で知った場合において違いを生じる可能性があるほか、
錯誤無効となるために外部に表示されていなければならないのは錯誤のある意思表示であるのか、
それとも錯誤そのものであるのか、
さらにはその錯誤は後から事実と異なってしまった場合でも良いかという違いを生み出しうる(後述)。



「法律行為の要素に錯誤」とは

「法律行為」とは
 法律行為の項参照。
  https://00m.in/MRUKj

「法律行為の要素」とは
  表示された意思の内、「法律行為」と言える主たる内容の一要素、つまり重要な部分をいう。
  この観点からみて要素の錯誤とは、
  判例・通説によればその錯誤がなければ表意者が意思表示をしなかったであろうという主観的因果性、
  錯誤がなければ通常人―本人特有の個人的事情や信条を捨象した一般人―も一般的な取引の通念に照らし意思表示をしないであろう
  という客観的重要性という要件を満たすものとする。

(略)

「錯誤」とは
判例

判例及びかつての通説は、保護されるべき表意者であるかどうかの判断を、
まず本条本文において「法律行為の要素」の「錯誤」とは何かを、下位ファクターを使って明らかにするという手法を採る。
その下位ファクターとして判例理論は錯誤には以下の3つの形態があると分析する。

 ・表示上の錯誤(表示行為そのものに関する錯誤。$と£を書き間違えたり、言い間違えたりするなど)
 ・表示行為の意味に関する錯誤(内容の錯誤)
 ・動機の錯誤

(略)

伝統的錯誤論の理論的根拠
表示上の錯誤

(略)

内容の錯誤

錯誤内容と実際とがどの程度の差異であれば本条本文の要件を満たすかは因果性と重要性の問題である。

(略)

判例理論の構造

錯誤による意思表示をすれば原則として無効となるわけではない。
幾つかの段階を経て残ったもののみについて無効となるに過ぎない。

 ・第一関門。当該錯誤は当該意思表示を無効にするに値する程の重大な錯誤か。
        「法律行為の要素とは何か」
       の問題である。
       もっとも、判例は言い回しとしてはそのような重大な錯誤ではないということを、
       『動機の錯誤に過ぎない』という言い回しで述べていることからすると、
       解釈論としては次に述べる「要素の錯誤とは何か」の問題として一元的に処理していると見ることもできる。
 ・第二関門。相手方は表意者の錯誤を知っていたか、または知りえたか。当該錯誤が相手方により引き起こされた時以外に証明は困難だが、
       錯誤につき相手方が悪意であれば但書の適用を問題とすることなく錯誤無効となる。
       要素の錯誤とは何かの問題であるが、法律行為の要素といえるものの内、
       外部からは認識できない動機の錯誤を除いたものが要素の錯誤に該当する。
 ・第三関門。相手方の錯誤に対する悪意が立証できないとき、その錯誤が表意者個人の重大な過失によるものかどうかが問題となる。
       もし重過失による勘違いであれば、相手方がそのことを認識できたはずだとは言いにくくなる。
       したがって当該意思表示は無効とはならなくなる。

 ・ つまり、些細な勘違いと外部からはうかがい知ることのできない表意者の勝手な思い込みを除外し、
   それから相手方の悪意を認定できないものについて錯誤表意者の悪意を知りえた但書の重過失認定で表意者の置かれていた客観的状態を判断し、
   表意者の自己責任の範疇においてなされた意思表示をさらに除外し、
   残ったものと錯誤につき相手方悪意の場合についてのみ錯誤無効による保護を与えることにより実質的な妥当性を調整する
   という複数段階を踏まえた構造を採る。
   複数とは言っても「保護に値する表意者とは何か」という価値判断を一貫したバックボーンとしているのであって、
   あくまでもその法的な説明方法としての錯誤理論である。

有力説

意思に欠陥があるから無効になるとする判例理論(の建て前)に対し、異なる視点からのアプローチがある。
実践的な狙いとしては、意思を欠く意思表示であるからその効果は
 ――第三者との関係においてさえも――
絶対的に無効となるという論を封じるという面もある。

有力説の論拠

 1.動機の錯誤と内容の錯誤とは、判例のようにはっきり区別することは困難である。
 2.錯誤により無効とすべきかの判断に、表意者が錯誤に陥っていることにつき
   ――相手方が悪意か否かであるなどといったような――
   相手方の事情を加えて判断すべきである。

(略)


「表意者」とは
意思を表示するものをいう。


「重大な過失」とは

重大な過失、すなわち重過失とは、
 「通常人であれば注意義務を尽くして錯誤に陥ることはなかったのに、著しく不注意であったために錯誤に陥ったこと」(大判大6.11.8)
である。

通常人とは
立証責任

重過失要件を満たすことの立証責任は、立証が成功すれば利益を受けることになる当事者すなわち意思表示の相手方が負う(実務)。

重過失要件の緩和―相手方が悪意のとき
相手方が悪意(表意者の錯誤を知っていた)であったと認定されたときは、
そのような不誠実な相手方を保護する必要がないから、本条但書の適用はない(判例·通説)。そもそも、錯誤が無効となるのはその錯誤が外部から見て相当に明白であるのに、相手方はそれを指摘すべき(民法第1条参照)であるが、それをすることなくかえってその錯誤に乗じて利益を得た相手方に対する法律行為の拘束力から表意者が解放されるべきであるとする価値判断を基礎とする(前述)。つまり、錯誤をはっきり認識していたにもかかわらずそれを指摘しなかったような場合については、まさに本条本文の意図する射程範囲となるが、一方単に錯誤を知りえたに過ぎないという程度の落ち度しかない相手方と表意者との関係においては表意者は絶対的に保護されるべきではないと言えるから、重過失によって錯誤に陥った表意者との関係では表意者側の落ち度の方が高いといえるのでこの場合に錯誤無効によって相手方の利益が害されることはない、とするのが本条但書の趣旨である。

以上の理解を前提に、要保護性の高い順に並べると以上のようになる。

 1.相手方の重要な錯誤を知る由も無い誠実な(正常の)相手方
 2.やむをえない事情によって結果的に錯誤に陥った表意者
 3.相手方の錯誤を知りえた相手方
 4.重過失により錯誤に陥った表意者
 5.表意者の錯誤を知っていた(と裁判上認定された)相手方

本条が表意者保護と取引安全の調整であることのあらわれである。
もっとも、既述のごとく、あらゆるケースにおいて表意者の錯誤を指摘すべきか、
表意者の錯誤について相手方が悪意であれば必ず無効とすべきかはなお検討を要する。