令和3年度本試験所感(9) | 士魂~samurai spirit~

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土地家屋調査士試験合格のための課外授業。
合格に必要なのは、条文知識や受験テクニックだけではないから。

みなさん、先日はお疲れ様でした。

 

令和3年度本試験の齊木個人の所感をこの後数日に渡り書いていきます。

よかったらご参考になさってください。

 

あくまで齊木個人の所感ですので、内容につき日建学院へのお問い合わせはごカンベンください。

 

【第21問】問1/A点、C点、H点及びL点の座標値の算出
A点→距離と方向角
C点→二等辺三角形の性質,距離と方向角
H点→AB、FEの4点交点計算
L点→IJの傾き指定交点計算
ま,特にトリッキーな計算を求められることもなく,日建学院生であればあっさりしっかり算出していただけたはずです。それにしても,10番2の地積測量図の立場は?

【第21問】問2/地図に準ずる図面についての説明
私世代にとっては,お馴染みのテーマではあるのですが,最近の受験生にとっては意外と盲点だったのかもしれません。時代の変化って恐ろしいものです(地図の整備が進んだということでもあるのでしょうから,喜ばしいことでもあるのですが・・・)。内容としては,地図に準ずる図面の定義・記録事項・保存期間といった基本的な知識を問うものですから,しっかりと得点源にしたいところです。

【第21問】問3/登記申請書の作成
登記の事件としては,オーソドックスな相続人による遺産分割の結果を反映させるための1筆を3筆にする分筆登記(地積更正なし)。まあ,ここまではいいですよね(笑)。で,論点としては2点ほど浮上するでしょうか。
論点1:申請書及び測量図に記載する分筆予定地の符号の付し方
論点2:申請人の判断(申請人欄の記載)

この後,それぞれの論点について,コメントしていきます。

<論点1:申請書及び測量図に記載する分筆予定地の符号の付し方>
甲区画,乙区画,丙区画とされているわけですから,(甲)(乙)(丙)とそのまま振りたいところですが,どうも具合が悪そうです。というのも,問題文中に分筆後の予定地番が示されており,甲区画:10番8,乙区画:10番1,丙区画:10番9なんですよね・・・。そうすると,地番の順序と甲乙丙という記号の順序の整合性が取れないことになってしまうので,とってもキモチ悪いんです。分筆後には残らない符号とはいえ,依頼人や当該分筆登記を受け付ける登記官が錯誤に陥るような付し方は避けたいところです(もちろん,申請代理人となる調査士本人にとっても)。ということで,「甲乙丙」以外の符号(「ABC」とか「イロハ」とか)を地番の若い順に付すことがベストな対応となるでしょう。
 

<論点2:申請人の判断(申請人欄の記載)>
正直,この論点については,ここで,どこまで話すべきかまだ迷っています。個人のブログというある意味無料・無責任なところで,ベラベラと話すのはあまり好きではありません。ただ,まあ,個人のブログであるからこそ言えることもありますし,字数や頁数の制限もなく,また,あまり神経質に言葉を選ぶことも要求されず,かえって伝わることもあるかな~って期待していたりもします。

たまにはね,私だって,少し気楽に思うところを話したいときだってあるんですよ・・・。


・・・と,ひとしきり言い訳と愚痴をこぼしたところで本題にいきますよ!

この論点の,全ての元凶(慎重に言葉を選ぶと「出発点」)は,【調査士の聴取記録の概要】6「山田二郎は,乙区画に抵当権を設定して融資を受けるために本件土地について必要となる表示に関する登記をすることを希望している。また,当該登記の申請は,山田二郎のみが申請人となってすることとなった。」という記述です。

被相続人山田太郎の相続人は,山田一郎・二郎・三郎であり,これらの共同相続人が遺産分割協議を行い,それぞれの区画(甲・乙・丙区画)をそれぞれが単独で相続することとなったということです。

ということは,みなさんご承知のとおり,遺産分割の遡及効により,10番1の土地の相続人は相続開始時に遡って一郎二郎三郎の3名であったことになりますよね。

で,さらにみなさんご存知のとおり,土地の分筆の登記の申請行為は,民法上,共有物の処分行為に当たるため,相続人全員(本問の場合は一郎二郎三郎)から,本問の分筆登記を申請するのが原則となりますよね。

この原則からは,二郎が単独で本件土地の分筆登記申請をすることは許されず,仮に二郎が単独で申請するとするならば,何らかの法的な後ろ盾が必要となってくるわけです。

そこで基本方針となるのが,単独で分筆申請をしたい二郎が他の相続人(一郎及び三郎)が有する申請権限を代わって行使する代位申請となるわけです(債権者代位)。そして,この場合には,二郎は,他の相続人に何かしらの債権を有している必要があります。この点,二郎は遺産分割により取得した乙区画につき単独の所有権登記を受ける権利を有しているわけですから,同じく遺産分割により本件土地の共同相続人となっている他の相続人に対して所有権移転登記請求権を有しているということになり,また,その基盤となるのは,あくまで本件土地の所有権登記名義人である「被相続人 山田太郎」であるので,申請人欄の記載は,日建学院が示した解答例の通りの振り合いとなるわけです。

一方で,「遺産分割協議の結果,1筆の土地の一部を相続することとなった相続人の場合は,当該相続する部分については単独で分筆の登記を申請することができる。」とする実務上の見解があります(日本加除出版株式会社刊「新版Q&A表示に関する登記の実務」第1巻参照)。

この文言を図示すると,以下の通りになります。


 

 

ただ,このハナシには続きがありまして,「しかしながら,遺産分割協議の結果,自己が相続する土地以外の土地について,共同相続人の一人から相続を証する書面を提供して分筆の登記を申請することはできない。」としています。これを,図化すると以下の通りとなります。

 

 

「じゃあ,本問の場合は?!」ってなりますよね。冷静に本問の事例を図解してみましょう。

 

・・・?

確かに,本問の事例においても,二郎は「自己が相続する土地についての分筆を申請するだけであり,結果として一郎が相続する部分と三郎が相続する部分が出来上がってしまうだけ」と考えることができ,ここからは,単独で申請することもできそうです。

 

一方で,二郎が単独で当該分筆登記をした場合「自己が相続する土地以外の土地」について,分筆登記の申請をしているともいえ,そうなると,本見解の“しかし書き”に抵触してしまい,やっぱり二郎の単独申請は不可となるのではないかとの帰結になりそうです。

 

この点,同冊子該当項目の文章内に示されている具体的事例を確認すると,下図の通りの内容で説明されていました。

 

・・・いや,そりゃそうでしょうけど,これでは本問の事例の参考にならないんですよね・・・(涙)。他にも関連する事例を必死に探索してみるものの,結局,この事例でしか「遺産分割による相続人のうち一部からの単独申請」を説明しているオフィシャルなものは現状,見当たりませんでした。

 

 

そうなってくるとですよ,この実務書の見解をそのまま本問の事例に当てはめることが可能とする裏付けはなく,予備校としては「二郎から単独で申請できる」とする解答例を示すことはできないわけです。

 

そもそも,この実務書見解は,遺産分割における相続登記手続上,あくまでも便宜上認めるための見解なのであって,その適用に当たっては個別具体的な登記事件ごとに判断されるべきものであり,その判断を予備校や受験生がすべきものではないだろうと個人的に考えています。

 

また,教務的見地からこの論点を考えたとき,これから調査士試験を受験しようとする方々に対し,「遺産分割協議の結果により,共同相続人のうち一人から単独で分筆登記を申請できる。」という実務的見解を先に示すことは,遺産分割協議の遡及効の効果等,法的な原則の学習・理解の妨げになるのではないかとも個人的に危惧しています(テクニカルな例外だけを覚えてしまうと,原理原則が忘却されてしまう。)。

 

ここからは,本問の解答例として(たとえ参考であっても),受験生に対していたずらに混乱を招かないようにするため,当該実務書見解を示さないことも,指導機関として適切な判断になりますよね。

 

ただ, 相続登記未了土地問題の解消が叫ばれている昨今,より簡便で迅速かつ正確な相続登記手続が要求されているという背景から,これからの登記行政の一翼を担うみなさんに対して,“こういう手法もある”ということを出題者が示したかったのではないか,という可能性を示す意味では,当該実務書見解を参考として解答例の内に示す意義もやはりあるのだろう,と個人的に思うところです。

 

以上からは,本申請人欄の記載の出来・不出来によって,合格が大きく左右されることはないと思われますので,この部分の解答については,あまり気に病まないでおきましょう。

 

 

 

【第21問】問4/地積測量図の作成

注意すべき点としては,符号の付け間違いだけでしょうかね。そもそも,符号の付し方について一考している人であれば,測量図の作成段階において注意しないわけはないですから,間違うはずもありませんよね。前述の通り,問3の得点見込みが不明瞭な状態だけに,確実に得点を重ねることができる本問の測量図の作成においてのミスは許されません。