前回の続きです。前回、タレントは労働者か事業者かというテーマで、まずは光GENJIの午後8時以降のテレビ出演が問題になった事例を取り上げて、その問題を通じて労働基準監督署が出した通達のことを書きました。結論としては、当時の光GENJIのメンバーは労働者ではないということで、事業者(個人事業主)扱いとなり、労働基準法が基本的に適用されない形となりました。

 

 

そうして、労働者ではないということで、当時の光GENJIのメンバーは、15歳未満でも午後8時以降の生放送のテレビ番組にも通常どおり出演する機会が増えたわけです。

 

 

 

当時労働基準監督署が公表した通達(1988年7月30日基収355号)を再度提示致します。

 

 

1 当人の提供する歌唱、演技等が基本的に他人によって代替できず、芸術性、人気等当人の個性が重要な要素となっていること。

2 当人に対する報酬は、稼働時間に応じて定められるものではないこと。

3 リハーサル、出演時間等の関係から時間が制約されることはあっても、プロダクション等との関係では時間的に拘束されることはないこと。

4 契約形態が雇用契約ではないこと。

 

 

 

これらすべてに該当すれば、そのタレント等は労働者ではないということになるわけですが、1999年、これらの要件を満たさないとして労働者扱いとされたタレント等の事例が発生しました。

 

 

 

 


 

 

 

【タレント等が労働者扱いとされた事例】

 

 

 

1999年12月に、当時15歳であってタレントの大森玲子さんが、大阪毎日放送の深夜ラジオの生放送番組に出演したことで、大阪府警が大森玲子さんの所属事務所と毎日放送の社員を労働基準法違反の疑いで書類送検するという問題が発生しました。

 

 

当時の大森玲子さんは18歳未満であったため、労働者と扱うのであれば午後10時以降の就労はできないので(労働基準法61条1項)、それに引っかかったという問題です。

 

 

このとき、大森玲子さんが労働者なのか事業者なのかということが問題となりましたが、この時の労働基準監督署の判断としては、労働者であるという判断だったようです。労働者であるため、深夜の生放送ラジオ番組に18歳未満である大森玲子さんが出演することは労働基準法61条1項に抵触する可能性があるという判断でした。

 

 

そのように判断した理由としては、第147回国会衆議院青少年問題に関する特別委員会において、当該タレントが「売り出し中」であり、「まだそこまで名前が通っていない」ということを理由に本件が労働基準法に抵触する可能性があったという答弁(労働省労働基準局長による答弁)がなされております。

 

 

 

このように、タレント等によって、労働者扱いとなるかそうでないかは分かれるので、まさにケースバイケースというのが現状なのだと思います。それ故に、テレビ局等の放送局としてもそのあたりの判別が難しいので、午後8時以降の生放送番組には18歳未満の者を出演させないという運用がなされており、実際に紅白歌合戦等は午後8時には18歳未満のタレント等を退場させます。

 

 

 

しかしこの大森玲子さんの事例を考慮すると、売り出し中のタレント等は労働者であり、ある程度売れて名前が通れば労働者ではなく事業者となるというようにも解釈できてしまいますが、売れているかどうかというのは割と抽象的であり、なかなか判断が難しいように思います。

 

 

 

このように、労働基準監督署による対応は、まさにケースバイケースといった様相で、一応の基準は出されているものの、その基準に該当しているかどうかの判断はタレント個別に判断せざるを得ないですし、抽象的な部分も多いため、タレントを出演させる側のテレビ局等としては、セーフティーに18歳未満のタレントは一律に午後8時以降の生放送番組には出演させないというようなやり方をせざるを得ないのもやむを得ないところと考えます。

 

 

 

前回と今回は、労働基準監督署によるタレント等の労働者性の判断の話しでしたが、裁判においてもタレント等が労働者なのかそうでないのかが争われた事例がありますので、次回はそれを取り上げたいと思います。

 

 

 

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