Q.既存書籍タイトルと同一タイトルの書籍を著作した場合に、著作権侵害となりますか(書籍の中身の内容は異なります)





A.既存書籍の名声に便乗したりするなどの不正の目的をもって同一タイトルとした場合には、既存書籍著作者の人格的利益を侵害しているとみなされることもあります。









短い言葉・文章の著作権についてあれこれ検討し、前回は「新聞記事見出しの著作権 」について検討しましたが、今回は、書籍タイトルの著作権について検討したいと思います。




今回の事案を検討するうえで、最も参考になるのが、平成9年1月に東京地裁で判決が下された「父よ!母よ!」事件です(東京地裁 平成7年(ワ)第11117号)。




この裁判は、原告が編著した書籍タイトル(父よ!母よ!)を被告が模倣した(被告著書タイトル:一行詩 父よ母よ)として著作権侵害による損害賠償請求を原告が求めて行われた裁判となります。










【父よ!母よ!事件】




この裁判において、東京地裁は「文芸書及びルポルタージュ等の書籍の題号に関して、日本文芸家協会の「文芸作品の題名に関する見解」(昭和59年4月発表)が尊重に値する見解であり~」という旨をまず述べております。



日本文芸家協会の「文芸作品の題名に関する見解」とは以下のような見解となります。



(日本文芸家協会)


文芸作品の題名は作者の苦心の所産であり,独創性の高いものも数多い。こうした作者の苦心や独創性は尊重されるべきであるが,題名を定める表現の自由も確保されなければならない。既存作品の題名が独創性が高く,その作品の評価が定まっており,その作品の名声に便乗したり,冒瀆したり,作者の感情を傷つける場合は,既存作品と同一題名を用いることは,避けることが望ましい。





上記見解を参酌したうえで、東京地方裁判所は以下のとおり判示しました。




(東京地裁)


「(原告書籍タイトルは) 「父よ」「母よ」という使用頻度の高いシンプルで重要な言葉を組み合わせたものであり、その意味で題号そのものとしてみた場合に、高度の独創性があるものということはできず、このようなシンプルで重要な言葉の組合せからなる題号を特定の人にのみ独占させる結果となることは、不正の目的が認められる等の特段の事情がない限り、表現の自由の観点から見て相当ではない。





上記のように、「父よ!母よ!」というタイトルには高度の独創性がないと判断しております。









【不正の目的】




そして「同一題号の書籍の出版が、場合によっては著作者の人格的利益の侵害となる場合があると考える。」とも判示しており、ここでいう「場合」とは、「不正の目的が認められる等の特段の事情」が相当すると考えられます。




この裁判は、結果として「(原告書籍と被告書籍との間で)その内容、表現形式については、顕著な差異があり、書籍の内容を相互に誤認混同するおそれはほとんどない」等の理由により被告には不正の目的がなかったと判断しております。





結果、裁判としては和解となりました。




この裁判において、書籍タイトルに著作権が発生するのかどうかについては明確に判断されませんでしたが、今までの関連する裁判などを考慮するに、書籍タイトルは著作権が基本的には発生しない性質であると考えられます。




なお、書籍タイトルにつき高度の独創性があれば今回とは違う判断がなされる可能性はありますので、そこは判例が出てくるのを待ちたいと思います。







また、今回のような事例を、不正競争防止法の観点からも考えることができますので、次回は不正競争防止法ではどうなのかといったことを検討したいと思います(続き「書籍等のタイトルの不正使用 ~VOGUE事件 」)。






【その他著作権事例Q&A】



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