鹿角は鉄の刃物で削れますが、広葉樹の硬木(カエデ・サクラなど)に比べてもかなり硬く手強くなかなか大変です。

「鹿角を水に漬けると切削性が良くなる」と言われていますが、ネット上にある鹿角を使ったクラフトの記事では金鋸やドリルが用いられていて、水を使う方法はなかなか見当たりません。そこで実際に水に漬ける方法を試してみました。

とりあえず40時間くらい水に漬けてから削って見たのですが、残念ながらその場では特に柔らかくなった様には感じられませんでした。

ところで、長時間水漬けすると鹿角の成分が溶け出す様で、水は茶色くなり、獣臭い臭気を発します。使った鹿角は20年ぐらい前に入手したものでもう十分に乾燥したものですが、水が染みた髄の多孔質部分あたりから相当な臭気が発生します。鋸で薄く切ったらもう大変な臭いに。たまらないので作業を止めて真夏の天日で乾燥させたところ臭いは収まりました。

ところが再び刃物を当てると、何だかさっきより僅かに硬い様な気がします。そこで髄に水が入らない様に表面だけを濡らして削って見ると、不思議なことに水漬けから取り上げた直後の感覚に戻りました。当初の乾いた状態で削ってから、水に漬けて2日間ほど開いたので、どうやら微妙な違いが判らなかった様です。

乾いた状態でも濡れた状態でも鉄器だと十分削れますが、乾いた状態で10の力がいるとすると、濡らすと9.5とか9ぐらいで削れる・・・という感じの様に思います。また水は特にたっぷりでなくとも良く、削っているその場でちょんちょんと濡らすだけで良い様です。これが言われている「縄文人の知恵」の正体なのか??という気分になりました。

この現象は、鹿角は生物の組織なので何となく均一ではなくて繊維状(?)の構造で、髄の部分の多孔質構造が外皮に行くほど緻密になって行っている様に様に思えますので、そこに水が何らか絡むのではないか?と思うのですが、詳しいことは分かりません。顕微鏡等で観察でもしたら何か発見があるかも知れません。

その変化は微妙なのですが、鹿角が水に濡れると急に柔らかくなるのであれば、雄鹿は雨に合う度に困るでしょうし、欧米で見られる様な鹿角のナイフの柄や拳銃の銃把は防水しなければならなくなりますが、そんなことでは無い様です。

とりあえずここまでのところで、鹿角の水を漬けると切削性が大きく向上する訳では無いものの、微妙な変化が起こって多少削りやすくなる様に感じられる・・・という事だと思われますが、これは個人の感想です。要領が改善されたり、作業が長時間になったら総計の影響は大きいかもしれませんし、刃物の切れ具合で作業者の感想は変わるかも知れません。また縄文時代の様に石器で加工するのであればまるで感覚が変わるかも知れません。

一方、鹿角は歪みのある楕円筒形なので、なかなかうまく落ち着かず、削る作業はどうやって安定的に保持するかにより作業性が大幅に変わります。刃先がつるっと行ったら保持している方の手を傷つけかねません。水に濡らすことにより保持する手が滑りやすくなってやりにくいとか、危険だという感想を抱く人もいるかも知れません。