イメージ 1

☆前漢時代の銅鏡・方格規矩四神鏡について解説を書いてみました。


方格規矩四神鏡の紋様について

方格(ほうかく)
中心の鈕(ひもを通すところ)を四角く囲んだ箇所が“方格”です 。
子・丑・寅・・・の十二支の漢字が並んでいます。

規矩(きく)
方格から四方に出る「T」型の紋様、その対面の「L」型の紋様と、その間にある「V」型の紋様。これらが“規矩”です。
これは建築物の設計に使う定規やコンパスにあたる道具なのですが、神がこれを持っている図像もあり、世界を司る道具でもあります。

四神(ししん)
細い線で美しい模様が描かれています。
紋様のなかに中国の方角の守護神である四神の青龍・白虎・朱雀・玄武が配置されています。
四神は高松塚古墳やキトラ古墳の壁画にも用いられています。

イメージ 2
四神の一つ 白虎(西方)

銘文(めいぶん) 

外周の雲紋の内側に、漢字の銘文が円周にぐるっとまわっています。ぜひ読んでみて下さい。2000年前の漢字が現代人の知識で読める事に気づかれるでしょう。
「・・」のマークが文頭です。

新 有 善 同(銅)出 丹 陽 
凍 治 銀 錫      清 而 明
尚 方 御 竟(鏡)大 毋 傷
左 龍 右 虎  辟(避)不 羊(祥)
朱 鳥 玄 武  順 陰 陽
子 孫 備 具  居 中 央
寿 敝 金 石  如 侯 王
   


銅鏡の銘文には、「銅」→「同」のように部首を略している事があります。上記の銘文の中では( )内の文字が本来の文字です。
また、文字は鋳型に彫り込むときに左右逆に彫ると鋳造した時に正像になるのですが、中には誤って鋳型に正像で彫り込んでしまったために、製品の文字が左右逆になっている例も多くみられます。
この復元鏡では敢えて「居」の文字を左右逆に書き、こうした誤りも一部再現しています。
        


銘文の意味(日本語訳)
 
(王莽の帝国・新:西暦8年~24年) には丹陽(地名)から出た善い銅が有る
                                          
銀色の錫とあわせて加工し 清く明るい  (☆青銅合金製なので銀は含有しない)
                                          
尚方(技術のある国営工場)でつくられた御鏡だから 傷なぞまったくない
                                          
                                          
左に龍(東の神獣・青龍) 右に虎 (西の神獣・白虎)  よくないことを避ける
                                          
朱雀(南の神獣) 玄武(北の神獣) この世の陰と陽のバランスをととのえる
                                          
(このすばらしい鏡を所有すれば・・・)
                                          
(あなたの)子孫は全てを手に入れ (出世して)中央のみやこに居をかまえる
                                          
寿命は金や石のように長くなり、(人生は)まるで諸侯や王の如くだ。 



方格規矩四神鏡の歴史

方格規矩四神鏡は今から約2000年前の中国前漢時代後期に出現し、西暦紀元前後の王莽の「新」の時代に多数作られました。長い中国の銅鏡の歴史の中で最高品質の製品の一つです。

その後も長い間にわたって作り続けられ、200年以上後の魏の時代にも同じデザインの銅鏡があります。                 

日本では北部九州の弥生時代中期~後期の遺跡からの出土品があり、これらはほぼリアルタイムで大陸から輸入されてきたと思われます。

鏡の大量埋葬で有名な糸島市の平原墳丘墓では、40面もの銅鏡の中で方格規矩四神鏡が最多数を占めています。

魏の「青龍三年」の銘が入った方格規矩四神鏡(京都府太田南古墳ほか)は邪馬台国の遣使の年代に近いことから「卑弥呼の鏡?」と注目されています。                         

古墳時代にはこれを倭国で模造した鏡が多数作られていて、大和天神山古墳や新沢千塚500号墳などからの出土品は橿考研付属博物館の展示室に展示されています。