つり革の瑕疵担保責任 その2(終) | 英文契約書と法務と特許を行ったり来たり

英文契約書と法務と特許を行ったり来たり

英文契約書、英語の学習、法務や特許に関する話題やその他仕事で感じたこと等を書いていきます。

つり革の瑕疵担保責任、その2となります。





パターン3、4の場合、果たしてすぐにプラスチック・メーカーへの保証責任が追及が可となるか?という点に関して書きたいと思います。





パターン3、4を再掲します。





パターン3


 成形メーカーに納入後、1ヶ月後に輪に成形し、さらに1ヵ月後に車両に組みつけられ、さらに1ヵ月後に輪が損壊した場合。



パターン4

 成形メーカーに納入後、1ヶ月後に輪に成形し、ビニールも取り付けた後、翌日の出荷前の検査で、プラスチックの瑕疵により、輪がつり革メーカーの要求する図面の規定が外れ、つり革メーカーに納入できなかった場合。さらに、ビニールも再利用できず、廃棄しなければならなくなった場合。








 なぜ、疑問符がつくか、といいますと、プラスチック特有の事情があります。





 プラスチックの製品を作るにあたっては、昨日も書いたとおり、


 「ペレット」という米粒状に加工されたプラスチックの粒を熱をかけて溶かし、金型に流し込み、冷やして、固める、という工程が必要となります。





 プラスチックのペレットは電子部品と異なり、そのまま組み込まれるものではありません。


 熱で溶かす → 冷やして固まる


 というプロセスをたどります。


 (実は、このプロセスの前に、プラスチックのペレットを乾燥させる乾燥工程もあります。 )





 このプロセスの間に入るのが、プラスチックを溶かす射出成形機であり、冷やして固める金型です。


 プラスチックのペレットは乾燥、加熱溶解、冷却という工程をたどります。





 さて、ここでまた問いになるのですが、プラスチックのペレットを納入したプラスチック・メーカーが、乾燥、加熱溶解、冷却という外的要因がかけられて製造されたプラスチック部品に対してどれだけの保証責任が追及できるのでしょうか?





 まだ多数説はプラスチック・メーカーに責任を追及できる、ということになるでしょう。





 ここで、プラスチック・ペレットの「瑕疵」とは、どんなものが考えられるでしょうか?瑕疵の内容を個別具体的に考える必要があると思います。





 ・プラスチックの成分が規格外である。


 ・プラスチックの成分に違う成分が混入している。


 ・プラスチックのペレットの中に、違う種類のプラスチックが混入している。


 ・プラスチックに含有している水分が通常より多い(はたして瑕疵といえるか微妙ですが)


 ・プラスチックの体積あたりの重量にバラツキがある(この場合違う成分が入っている場合があるようですが)





 これらは瑕疵にあたるとして、プラスチック製品の寸法違いや、損壊の原因なのか?こうなるとこれは所謂、因果関係があるか?という議論です。





 瑕疵担保責任は、法定責任か、契約責任か?という学説の対立がありますが、契約書で規定する場合は、瑕疵担保責任を、契約責任として入れているというところでしょうか。





 話はつり革に戻りますが、プラスチック・メーカーとしては、つり革となったときに発生した不良や損害が、プラスチックの瑕疵と因果関係が明確であり、それが成形メーカーが立証できたとき、というような修正を契約書の規定に盛り込むところが防衛策と思われます。


 因果関係が明確になれば、プラスチックの溶解、冷却という要因を、プラスチック・メーカーは反論に使うことは難しいかもしれません。これに対しては、販売する前の段階で、保証の範囲を明確にしておくべきでしょう。





 昨日の規定例は、


「 別途定めがない限り、目的物の引渡し後一年以内に瑕疵が発見された場合は、甲は乙に対して、代替品の納入、代金の減額、または発生した損害の賠償を請求することができる。」


ということで、「瑕疵が発見された場合」とあいまいな書き方になっています。


 買主側としては、瑕疵と損害の因果関係まで書くと不利になるので、このような書き方がいいかもしれませんが、いざ訴訟となると、もめるところになると思います。





 材料や部品の販売において、使用方法、加工方法によって、製品である材料・部品は様々なダメージを受けます。そのような外的要因まで含めて考慮する必要があり、売主としては基本的な契約条項だけで済ませてしまうことは得策ではない、というところでしょうか。





 この点は、法務部門だけでなく、品質保証や製造部門とで、本当に保証できる品質とは何か、という観点で話をつめたいところだと思います。