追い詰められると人は大切なものに気づく。
ギリシャ戦の前に内田が発していた問いから始めよう。
「人それぞれの考え方じゃないですか? 選手だけじゃなくて、日本で見ている人もそうだし、(マスコミの)皆さんも。W杯は勝つのが目標なのか、自分たちのサッカーをすればOKなのか」
影響を考えて、内田は自分の答えを明らかにすることを避けようとしたが、ギリシャ戦のために何ができるかと問われたときの返事はこうだった。「勝つために何をするかを考えればいいじゃないですか」
内田が気を使ったのは、チーム内に「自分たちのサッカーをすれば勝てる」という声が多かったからだ。
もっともらしく聞こえるが、「自分たちのサッカー」しか勝つ方法がないという前提に立つ論法だ。相手の出方に応じて、選択肢はたくさんあるのに、「自分たちのサッカー」に狭めるのは得策だろうか。
次のコロンビア戦に最低でも勝たなけレブロン13 モンスターハートビーツ ばならない今の状況になって、内田の問いは重みを増している。
もう一つ、ギリシャ戦で香川を控えに回した采配で明確になったことがある。
このチームの両サイドのMFは、まず大きく外に構える約束になっている。そこへのパスをきっかけに周囲が動き出す攻撃パターンを磨いてきた。
左MFの香川は最近、それを無視して行きたいところへ行ってしまうことが多かった。先発から外した理由をザッケローニ監督は「香川は中央への動きが多くなる選手で、今日の(ギリシャ戦の)狙いとは合わないと考えた」と語った。
香川はザッケローニ監督の求める動きを理解していないのだろうか。それともザッケローニ監督が香川を制御できなくなったのだろうか。
代わって先発した大久保はW杯直前の親善試合をしながら「サイドだとボールの受け方がわからない」と言っていた。その大久保に試合前、ザッケローニ監督は特段の指示を託さなかったという。選手がピッチのどこでプレーすることが多かったかを示す「ヒートマップ」という公式記録がある。大久保のプレーは中央から右に分布している。
定位置の右MFから左MFに回った岡崎も中央寄り。右利きで左足は苦手の点取り屋が本能で動いた結果だろう。左サイドの最後方に位置する長友はこう言った。「どうやって相手の守備をこじ開けようという共通意識がない」
練習してきたことをやらなくなった一方で、練習していないことをやっている。中盤から敵陣ゴール前に浮き球を放り込む試合終盤の「パワープレー」だ。
このチームはW杯本大会までに52試合してきたが、身長194センチのFWハーフナーを起用した17試合を含め、パワープレーはしたことがないし、練習すらしていない。
日本のチーム戦術はこんな状態だ。
幸いなことに、日本は追い詰められた。ぼやけた「自分たちのサッカー」ではなく、勝つためになにをするかに集中できる。(編集委員?忠鉢信一)