平成22年11月26日から28日まで大阪国際会議場にて開催された第49回日本網膜硝子体学会総会に参加させて頂きました。26日9時から一般講演AMD1にて「日本人加齢黄斑変性患者におけるreticular pseudodrusenの頻度」について報告致しました。

座長は京都大学教授の吉村長久先生と東京大学講師の柳靖雄先生です。東大眼科黄斑外来患者のカルテ調査だったため、同外来の担当医12名に共同演者になっていただきました。
加齢黄斑変性(AMD)は先進国では後天性失明原因の第一位で日本でも増えています。reticular pseudodrusen(RPD)は眼底網膜下に網状の白色沈着物を認める物で、AMDとの関連が注目されていますが、日本人における報告はありませんでした。今回東大黄斑外来を6月に受診した133名の眼底写真を見て、2%に認めました。これは欧米の報告の10%程度に比べてかなり少なく、また通常の眼科外来でも50人に1人程度認める印象とあまり変わりません。厚生年金で私が診ている数百名の中では特に強く認める方が2名いますがAMDは発症していません。
座長の吉村先生からは2%とのことだが、よく見ていないだけで実際はもっと多いのではないかとのコメントを頂きました。確かに微妙な症例は除外しているのですが、その後国内多施設共同研究グループによる「異常眼底自発蛍光を伴う加齢黄斑変性初期病態に関する臨床研究報告」においても欧米に多かった網状の自発蛍光が少ないことが示されたので、欧米よりはやはり少ないのだと思います。

他神戸から「ポリープ状脈絡膜血管症に対する光線力学療法とラニビズマブの比較ーLAPTOP study-」の途中経過が示されました。ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)は加齢黄斑変性の一部で日本人に多いのですが、従来の光線力学療法が日本人特にPCVで良く効く事、PCVはラニビズマブが効きにくいとの報告があります。現在主流のラニビズマブ眼内注射ではなく従来型の光線力学療法の方が良く効く事を無作為割り付けで確実に証明する事を狙ったそうですが、逆の結果が出ていました。私のグループでも同様の傾向を把握していてあまり光線力学療法を勧めていなかったのですが、この結果に勇気づけられました。会場は納得いかないムードでしたが。

福島県立医大からは最近6年間でPCVの割合が減少している事が発表されました。個人的にはPCVに脳出血、通常のAMDには脳梗塞が対応していると思っているので、脳血管病変と同様に食生活の変化により実際に病態の割合が変化しているのだと思っていますが、そう思っている人は誰もいないようで、あまり信用されない雰囲気になっていました。

「黄斑部毛細血管拡張症の病態と治療」というシンポジウムがありました。以前黄斑部毛細血管拡張症の論文を書いた事があるので興味があるのですが、良い治療がないためしばしば放置されている疾患です。病態はかなり分かってきているのですが、やはり治療は活動性の高いごく一部に限られるようです。治療薬は未認可ですが当院では倫理委員会の審査を経て使用しています。
「周術期感染症対策を考える」に出席した。モキシフロキサシン点眼液を使えば耐性菌も出てこず良いという話。昔はクラビット点眼液もそう言われていたが、全国で大量に使った結果今では耐性菌が当たり前にある。
講演の中で一番印象的だったのはアメリカで1万数千例の手術で手術1時間前からの抗菌点眼を使うか使わないか、術中眼内に抗菌剤を注射するかどうかで眼内炎発生率がどうなるか調べた物。注射しない場合、点眼しないと0.4%、点眼して0.3%(うる覚え)と大差なく、注射するとそれが0.05%まで下がる。しかし注射は厚労省の認可がないので倫理委員会を通さないと出来ない。
日本では普通短くて3日前から、長くて1週間前から抗生剤点眼をするが、それで眼内炎が減るという明確なエビデンスはない。クラビットで1000円と少しだから、年間日本で100万人手術しているとして10億円の薬剤費が使われていることになる。10億円をもし救急医療に回したら年間何人もの命が救われる気がするが、それと同等の効果があるのだろうか?
先日東京厚生年金各科の周術期抗生剤使用法一覧を見る機会があったが、「手術当日術野に十分濃度の抗生剤が必要」とのことで、他の科は手術時に抗生剤を点滴したり、直前に内服したりしていた。眼科に習うとしたら、例えばおなかを切るなら3日前から切る部分に抗生剤軟膏を塗ってください、と言うような物だが、そんな科はなかった。点眼したところで菌の検出率は半分になるだけで、耐性菌はむしろ増えている印象。感染症学では常識とされていることが、眼科でのみ守られていないことになる。
現状の日本の眼内炎発生率は0.05%程度とされている。報告を信じればの話だが。 年間100万件とすれば500人もが眼内炎になっていることになる。その1/10程度が手遅れで失明になるとすれば50人である。印象的にはもう少し少ないが。術前何日もさかのぼっての点眼をやめることでこれが倍になるとしたら大変なことだが、では半分に減らすために、自己負担、健康保険とその中の国庫負担で計10億円も出す意味があるだろうか、それを例えば失業対策に回したら何人もの自殺者が救われるだろうがそれをしないで見殺しにしてまで点眼する必要があるのだろうか?もちろん「ある」可能性も高いと思うが、しっかり調べずにこのまま続けて行っていいのだろうか?もしやった方がいいのであれば、それを統計的にしっかり証明した上で他の国にも勧めれば実に素晴らしい海外貢献にもなるだろう。
ちなみに私が眼科医になった10年前は術前抗菌点眼は気が向いたら出す感じだった。ところが術翌日痛がっているのに診察せず、発見後も菌を除去する手術を予定手術の後に回して失明になった事例の裁判で、術前抗菌点眼をしなかったことを失明原因の一つにして敗訴確定になってしまったからさあ大変。全国一斉に点眼必須になった。
当時は科学的根拠のない判決を出す裁判というのはずいぶん罪作りだと思い、トンデモ判決を目にしては唖然としていたのだが、ある医療裁判ウォッチャーが、医者にヤブがいるように裁判官にもヤブがいて、医療以上に不確実で当てにならないと言っているのを聞きなるほどと思った。
それでは自分だけでも術前抗菌剤を他科や他国に習って減らせるかと言われれば、眼内炎発生が問題化したときに、逆に「根拠無く廃止した」とセンセーショナルに報道されるリスクを考えると、困難だ。