もし、身内にうつになった人がいたら、もし妻がうつになったら、身内は夫は何をしてあげたらいいのかー。
その答えがリリー・フランキーさん演じる夫・カナオから読み取ることができると思いました。

 

私の中でのその答えとは。

 

何もしないこと(何も言わないこと)ただ傍にいてくれること。

 

これって、すご~く難しいことなんだと思います。

 

妻・翔子(木村多江)は妊娠していました。
冒頭の会話が笑いを誘われます。

 

「今日はアレの日よ」
「バナナを食べながら、今日はアレの日よと言われたって、ちっともこっちはその気になれないんだよ。口べにくらいつけてよ」
「あなたがいつも約束を守らないから、私がこうやって決めているんじゃない。ちゃんとしたいのよ」
と強引に寝室へ。

 

コミカルな夫婦から一転、あることがきっかけで、幸せに影を落とすように、翔子の心は崩れていってしまいます。

 

本来は日本画家になりたかったカナオは生活の為法廷画家の仕事をしてます。

 

夫婦の物語と並行して、90年代に起こった大きな事件が法廷で繰り広げられていきます。
埼玉連続幼女殺人事件、地下鉄サリン事件、園児殺害事件などなどを実際の事件を彷彿とさせられます。

 

翔子は仕事でのささいなことなど重なって、だんだんうつがひどくなっていきました。

 

この翔子のうつ状態が、一度経験した人であればすごく理解ができると思います。
家事をしたくともできなくなる。
本人が一番辛いこと。

 

でも、私が注目したのは、夫のカナオでした。
職場では、嫌な事件の数々を目にし、本来だったら描きたくないような絵を描かなければならない。
法廷に繰り広げられる生々しい証言。
聞くにおぞましい犯人の言葉。泥沼のような人間関係。
見てて気分が悪くなるような忌まわしい事件ばかり。
家に帰れば、妻はうつで暗い状態。
妻の実家に行けば、まるで世の中の縮図のような世界。

 

でもカナオは全てを、淡々と受け止めているかのように見えます。

 

精神がよほど強くなければ、あんな風に居られないでしょう。
カナオにも辛い過去があってこそのイマ。

 

法廷での事件と、ひと家族の世界。

 

永遠に続く幸せなんてない。
誰だって一瞬で幸せが終わってしまうことだってある。
いろんな事件が毎日のように起きても、生きていかねばならない。
カナオはきっと何もかも淡々と受け止めて行こうと思っているのかもしれません。
逃げたくないという気持ちから。

 

辛さがピークに達した翔子が夫に聞きます。
「なぜ、私といるの?」
「好きだから」

 

重いテーマの映画だけど、再生したときの喜びの姿がとっても良かったです。

 

うつから脱するには、結局自分自身がその方法を見出すしかないのだと思います。
もがき苦しんで、何かのきっかけでそこから抜け出せる。
でも、抜け出せた時は世界が変わって見えるようにもなるでしょう。

 

この辺を、この映画はすばらしく美しく描き出していました。

 

本当にいい夫婦だな、と思いました。
やはり、愛は強いな、と今さらながら思いました。

 

リリー・フランキーさんが自然な演技で、
人間のあったかさがにじみ出てました。

 

本物のうつの状態を演じた木村多江さんもとっても良かったです。
再生したときの彼女の顔が違って見えました。


 

なんだか、絵ごころもないのに、スケッチブックを取り出して絵を描きたくなるような映画でした!!

 

監督:橋口亮輔
出演: 木村多江  /佐藤翔子
リリー・フランキー / 佐藤カナオ
倍賞美津子  /翔子の母親