「むかしの味」(新潮文庫 昭和63年発行)

 

池波さんが子供の頃、株屋で丁稚奉公していたころ、役所勤めの頃、
その後のお芝居や小説の仕事をしていたころ、戦前、戦後に渡って慣れ親しんできた味のお店を訪ね歩き、お店の紹介と、その頃のご自身の体験談やいろいろなエピソードを織り交ぜたエッセイ本。

 

池波さんの豊富な知識と経験がお店の紹介に絡めてておもしろいです。

 

たとえば、
一般的に外食の復興は蕎麦からはじまったこと。
(これなら大丈夫だ、日本は、かならず、復興する)と思い
蕎麦大流行の基になったのが、朝鮮の僧侶・元珍が奈良へ来て、蕎麦の割粉に小麦粉を入れることを教えたことがきっかけだったとあります。

 

池波さんの小説「鬼平犯科帳」や「剣客商売」のエピソードなども紹介されています。

 

くすりと笑ったのが、植草甚一さんとの会話。
京都の[イノダ]の紹介で

 

~以下抜粋~
先年に亡くなった植草甚一さんが、よく私にいったものだ。
「どうして、イノダのコーヒーは、あんなに旨いんでしょうね?」
「さあ・・・」
コーヒーは好きだが、植草さんほどの[マニア]ではない私は、どうも返事の仕様がなかった。
「ねえ、どうしてでしょう」
「おわかりにならない?」
「あなたどうです?」
「コーヒーにくわしいあなたがわからないのに、私にわかるはずがありませんよ」
その旨さは日本人の舌に合う旨さだということだけはわかる。


 

なんとなく植草さんのとぼけた感じと、それに対してとまどっている池波さんの姿が想像できます。

 

むかしの味もさることながら、むしろ、「むかしの店」をありがたくおもう。
との言葉が印象に残ります。

 

代が代わると味や雰囲気を維持していくことは難しいことでしょうね。

 

池波さんのエッセイや小説は若い頃(19歳くらい)から好きで読んでましたが
紹介されているお店には縁がなく行ったことがなかったです。

 

機会があったら一件、一件訪ねてみたいものです。
まずは[日本橋たいめんけん]からかなぁ。。

 

目次
ポークソテーとカレーライス―日本橋〔たいめいけん〕
鮨―銀座〔新富寿し〕
〔まつや〕の蕎麦
粟ぜんざい―神田〔竹むら〕
ポークカツレツとハヤシライス―銀座〔煉瓦亭〕
仕出し料理―品川〔若出雲〕
どんどん焼
クリーム・ソーダとアイス・コーヒー―銀座〔清月堂ライクス〕
京都〔松鮨〕
京都〔イノダ〕と〔開新堂〕
鰻―浅草〔前川〕
信州蕎麦―上田市〔刀屋〕
中華料理―松本市〔竹乃屋〕
チキンライスとミート・コロッケなど―銀座〔資生堂パーラー〕
横浜の酒場〔スペリオ〕と〔パリ〕
おでんとあぶり餅など―京都〔蛸長〕〔かざりや〕他
ビーツカツレツとかやく御飯―大阪〔ABC〕〔大黒〕他
焼売、餃子、中華蕎麦など―横浜〔清風楼〕〔蓬莱閣〕他
パルメ・ステーキとチキン・チャプスイなど―京都〔フルヤ〕
ホットケーキとフルーツ―神田〔万惣〕
饂飩と日本風中華―京都〔初音〕と〔盛京亭〕
牛乳、卵、野菜、パンなど―フランスの田舎のホテル