あれはまだ私とハイエナが結婚する前の事でした。
まだ舅の病気が発覚しておらずムスコン夫婦はハイエナを置いて二人で一週間ほど旅行へ行きました。
その間のハイエナの飯はコンビニ弁当と缶詰でした。
それでですね。
ムスコン夫婦が不在の週末に
「おとんがうちの台所を使ってりんごに何か作らせて食べろって言ってる~」
とハイエナが言い出しました
結婚もしていない男の実家に親の不在時に上がり込んでその台所で料理をしろと言われても私にはできません。だって他人の台所ですよ?私が勝手に使ってもいいとは思えない
しかしハイエナはホテル代が惜しかったのとおとんとおかんがそうしろって言うからという理由で私をムスコンハウスに連れて行きました
その途中で一緒に買い物をしました。
私は簡単なもので済ませたかったので
「キムチ鍋にしない?」
と言いました。
するとハイエナは
「おお、ええなぁ」
と言ったのであっさりメニューが決まりました。
一緒に買い物をした時は新婚さんになったような気分で楽しかったです。
ただ肉をたくさん買わされたのがちょっと気になりました。
そしてムスコンハウスへ到着しました。
玄関を上がって廊下を歩いて台所に入った瞬間、私は目を疑いました。
台所の流しには所狭しとシーチキンの汚れがついて乾いた状態のシーチキンの缶とサトウのご飯の空パックとこれまた味噌だれが残って乾いているさばの味噌煮の缶が山積みになっていました
そしてテーブルの上にはコンビニ弁当の空き容器が山積みになっていてジュースの缶やペットボトルも乱雑に置かれていました
これを私に一体どうしろと言うんでしょうか。
キムチ鍋を作ろうにもまずは台所を片付けないといけません。
私はこの時ムスコンとは一回挨拶をしたぐらいで深く関わったことがなくまだムスコンの本性を知りませんでした。
だけどムスコンは台所がこんな状態だと知っていてわざと私を呼びつけたのかなと思いました。
自分が旅行から帰ってきてハイエナが食い散らかした台所を片付けるのが大変だから、将来の嫁候補のりんごに片づけさせてついでにどこまで綺麗にするかを試したいと思ったのではないだろうか
これは戦うべきか逃げるべきか。でももう材料は買っちゃったし、ハイエナも私を呼ぶと両親に言っただろうからこれは引くに引けない戦いだ。
私は腹を括って片づけることにしました。
まず汚れがこびりついた缶詰をどうするかを考えましたが、いやらしい姑ならきっと「まぁ!缶詰の汚れも洗わないのね」と言うに違いないだろう。
こんなこと私がやる義理は一つもありませんが、私は大量の使用済み缶詰を一つ一つ洗っていきました。
次は缶とペットボトルを洗って別の場所へ移動させて乾かして、コンビニ弁当の容器を袋にまとめました。ゴミ袋はどこにあるか漁ったらいけないと思ったのでハイエナに他の袋を持ってきてもらってその中へ入れました。
流しを見ると、業者の名前が書いてある白くて薄い新品のタオルが絞った状態で置かれていました。
これで流し周りを拭けと言う意味か。
あえて新品なタオルを使っているところがいやらしい。
それで悩んだのが、流しが結構汚ないけどどこまで綺麗にしたらいいのかな、ということ。
このままにした方がいいのか悪いのか?このままにしておくと「まぁ!汚いわね」と自分の事を棚に上げて言いそうだし、綺麗にしたらしたで「まぁ!私の掃除が行き届いていないっていう当てつけなのね!」と言われそうだし一体どうしたらいいものか。
何で結婚もしていない相手の事でこんなに悩まなければいけないのか。
私が片づけている間、ハイエナは洋間でテレビを見ていました。
思えばこの時にこの男は家事を手伝わない男だと三下り半を突き付けておけば良かった。自分が食い散らかしたものを彼女一人に片づけさせて平気な男が家事に協力的なわけがないもんね。
悩んだ結果、「遠足に行ったときは来た時よりもきれいにして帰りましょう」という小学校の時の教えを思い出してご飯を食べた後に磨けるところは磨いておきました。これで嫌われたらそれまでだ。
片づけるのにエネルギーを使ったのでキムチ鍋を作り終わったときにはヘトヘトでした。
でもまだこの時の私は若くて健康だったのですぐに元気を取り戻せました。
ハイエナはあっという間に鍋を食い尽くしました。でもスープが残っているからまだ食いたいといって冷凍庫からウインナーをたくさん出してきてあるだけ全部放り込んで煮て食いました。
それで〆に卵を落とした雑炊にして、食べながら
「こうやって雑炊にすると鍋に入れたものが全部栄養になるよ」
と私が言いました。ちなみに流しは大掃除並みに綺麗にして帰りましたよ。
それから月日が流れてハイエナと結婚することになってムスコン夫婦と初めて一緒に飯を食ったときに私はムスコンから
「あの時りんごさんは何て綺麗好きな人なんだろうって思ったのよ」
と猫なで声で言われて寒気がしました。
それを聞いた瞬間、やはりこの婆は私がどこまで掃除したかを隅々までチェックしたんだなと思いました。
それから別の日に初めてムスコンと三人でキムチ鍋をした時に、ムスコンが〆に卵を落とした雑炊を作りながら
「こうすれば全部栄養になる」
と「私が知っていることを教えて言い聞かせてあげるわよ」と言わんばかりの恩着せがましい口調で私がハイエナに言ったことと同じことを言いました。
いやそれ言ったの私が先だからね!そして何でもママにペラペラ喋ったハイエナにもうんざりしました。
だけど私はあえて知らないふりをしてスルーしました。
以上、今日の小話でした。