習字セットは5480円だった。
別に高くはない。
安くもないけど。
子供の冬休みの宿題のために買った。
買わざるを得なかった。
床に四つん這いの格好で息子が筆を走らせている。
八つ切りの長半紙に、
『夢の実現』
と書かれている。
「はぁ、もう面倒くさい、、、」
と一枚目を、書き終わった時点でため息混じりに呟いている。
始業式前日の夜8時だから、尚更だろうなとは思う。
3枚提出しなければならないらしい。
3枚書いて1番良い出来の作品を出せばいいのではと思ったのだが、それだと目の前の我が息子は一枚だけ書いてそれを提出するだろう。
なるほど、だから3枚提出するのか。
学校側も分かってるなと1人納得した。
結局今年も一番面倒くさい課題を最後まで残して、最終日に嘆いている。
自分は夏休み・冬休みの課題は早めに終わらせるタイプだったのに。。。
誰に似たんだろう。
と、部屋の脇で微笑んでいる妻の写真に目をやった。
気がつくとニ枚目の「夢の実現』が実現されていた。
いや、早いだろ。
メモ書きじゃないんだから。
一応習字なんだけど。
こんなものの為に5480円を払ったのかと思うと切ない。
「ふぅ、、あと、一枚か、、、」
そう、後一枚で終わる。
この一枚が終わったらこの習字道具は用済みになるのか。
この習字道具はこの3枚の為だけに生まれて来たのか。
そう考えるとこの習字道具に対して本当に申し訳ない気分になった。
そもそも、なんで習字道具なんて無くすんだろう。
あんなもん、無くなるか普通?
何でまた、小学6年生の冬に無くすんだろう。
「よし!終わったぜぇぇ!!」
息子が声をあげ高らかに、勝ち誇っている。
こんな投げやりな気持ちで夢が実現する訳がないと思いながら
「頑張ったね。
じゃあ、宿題全部纏めて明日忘れないように、、、
「俺、天才〜」
と夢の実現を両手で掲げてひらひらさせながら狭い部屋を駆け回っている。
ああ、これはアレだな。
陸上の金メダリストが自分の国の国旗をマントのようにしてトラックを駆け回ってヤツにインスパイアされたヤツだな。
と思い至った時だった。
彼は自分の墨汁が入った硯を蹴飛ばした。
墨が部屋中に飛散した。
床に置かれていた1枚目と2枚目の『夢の実現』にも飛散した。
「あああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっっっっ!!!!!」
金メダリストの顔が見るも悲惨な表情に一変した。
この後の描写はお見苦しいので割愛する。
後3ヶ月で小学校生活が終わるまでのか。
人並みな表現だけどピカピカの一年生の入学式の姿が昨日の事のように思う。
夫婦間揃って息子の卒業式を見守れるものだと当然の様に思っていた。
彼は中学校で本当にやっていけるのだろうか。
そして、絨毯に飛んだ墨汁は洗濯で落ちるんだろうか。


