活字@えんとろぴ!
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"大学入試のパイオニア"



著者: 原田 宗典
タイトル: 平成トム・ソーヤー


 全国の受験生の皆さんはセンター試験だなんだと急がしそう。かくいう私も去年の今頃はその坩堝の真っ只中にいたんだけどね。
 必死になって灰色の細胞に活いれて、ガンガン試験対策それのみにしか通用しないような著しく汎用性の低い知識――そんなものを知識とはたして呼べるのかはなはだ疑問ではあるが――を詰め込んだりするわけだ。
 そろそろ飽きたんジャナイ? (受験生がこんな私のたわごとを読んで一息ついてる時点で、現実逃避モード全開な予感w)


 そんなこんなで、今回紹介する本はコレ!

 次の瞬間、彼のコートの右ポケットに入っていた何かは、ぼくのポケットの中へ移動した。おそらく生徒手帳だろう。手触りと大きさで、それと分かる。

 尋常でないほど指先の皮膚感覚が鋭い主人公ノムラノブオ。スーツの内ポケットからサイフを抜き取ることなど容易いほどに正確無比の皮膚感覚。
 彼のこの才能に気付き目をつけた男は、"現役で有名私立大に楽に入る方法"を持ち掛ける。スウガクと称するその男の言う方法とは、入試問題を掏ることだった。

 このストーリーが、原田宗則の巧みな心理描写を伴って展開される。掏りの瞬間のノムラの手捌きなど、緊張感と高揚感とが見事に表現されてると思うよ。非日常のなかに不思議な現実感が盛り込まれてて、思わず固唾を飲むほど引き込まれてしまうよ。

 単なる恋愛小説とも犯罪小説とも一線を隔した、青臭くも仄暗いお受験物語。たまには過ぎ去ったほろ苦い青春時代に思いを馳せてみてはいかが?

  「早く春にならねえかな」

"巨大な褐色の虫"



著者: カフカ, 高橋 義孝
タイトル: 変身

 ある朝、グレーゴル・ザムザがなにか気がかりな夢から目をさますと、自分が寝床の中で一匹の巨大な虫に変わっているのを発見した。(冒頭より)

 青年外交販売員グレーゴルが虫になってしまうという、この作品の幕開けはあまりにショッキング。原因不明にして対処法もまた不明。不可解な変身を遂げたグレーゴルだけど、周りの人達――どころか虫になった彼自身でさえも――はその現象にさしたる反応をしめさない。淡々とグレーゴルが人外のなにかへと変身してしまったことを受け入れる。

 「おいおい少しもリアクションとらないのかよ、芸人泣かせの連中だな」なんて、読者の私が一歩ひいてしまうほど徹底的にシュール。
 だいたい冒頭の"発見した"なんて描写からしてどこかズレてるのな。まるで他人事みたいに距離をおいて、醜い虫に成り下がった自分自身の姿を傍観しているかのよう。要するに、グレーゴルは悲しいほどに自分を客観視しているってことじゃないかな。
 そんな己を突き放したような一人称で書き綴られた文章はどこまでも素っ気なく物語を紡ぐ。実の親父に林檎で背中を爆撃されて、重傷を負った時でもグレーゴルは淡然とした姿勢を崩さない。
 そしてやがて崩壊し、死にゆく自分をもどこか遠巻きに眺めるようにしたままで……。

 良くも悪くも曖昧模糊とした読後感を与えてくれる作品だね。恐ろしくエキセントリックな喜劇なのか、はたまた底抜けに下らない悲劇なのか、あるいは。考えさせられる深みのある一冊。日頃とりたて思うところもなく生かされている(一部に過剰表現が見受けられる)ような私にはいい薬ってやつだわ。

 ちなみにあなたはどんな"虫"を想像した? ムカデ? ゴキブリ? ちなみに私は王蟲みたいなのを心に描いてたよ。「ワレ等ハココデ森ニナル」みたいな。関係ないか。

※挨拶――長ったらしいわりに中身なし

 ちょいと順序が前後したために多少やりづらい感のあるのは否めない。それでも今更ながらの自己紹介、の類のつもりの声明文を。

 己の偏見と独断で選りすぐった"本"を、しろーと丸出しのレビューで塗りたくってゆこう。ってのがウチの基本方針、みたいな雰囲気がそこはかとなく漂っているような。
 全くもって自慢にもならないけれど、我ながら人並み外れて意志薄弱。だいたいスライムベスくらい弱い。そんなわけで基本方針なんざキッパリスッパリ無視して、まるで関係のない駄文をのっけることもあるやも。仕様です。故障等の恐れは一切ない、ハズ。きっと。

 さてさて、こんな辺鄙なところまで惰性で読み進んでしまったあなた。すなわち、私の「先に断っておけば後々楽だろ」的な末恐ろしいほど図々しい及び腰に付き合って下さったあなた。そんなあなたには「立派な物好き」の称号をぜひとも贈りたい。今回に限って特別に、友人知人に自慢して周ることも許可。(たくさんの大切なモノを失う覚悟、必須。個人の判断に委ねる方向で)
 できることなら、「そんな称号、のしつけて返上してやる」なんて言わずに今後とも宜しく御贔屓にして頂ければ至上の幸福と存じ上げますが、どうよ

"孤島×密室×首なし死体"



著者: 西尾 維新
タイトル: クビキリサイクル―青色サヴァンと戯言遣い

 よいね。
 私は天才の出てくる話――突き詰めればほとんどの小説には、なんらかの多種多様な天才やら英雄が登場するものだけど――が大好きなんで、それだけで十二分に楽しめたよ。
 なんと言ったってクビキリサイクルの登場人物は、その実に半分以上がそれぞれその道の天才だっていうんだから。そりゃ人物紹介に目を通しただけで私のテンションは急上昇ってもんだ。

 その天才達の中でも一際異彩を放っているのが、天才占術師・姫菜真姫の存在だろうね。過去視予知精神感応までをも備えたESP。
 とてもじゃないが推理小説の舞台に上ることの許されたキャラじゃないでしょうが。もし彼女が犯人だったら探偵の考えることなんて筒抜けだし、逆に彼女が探偵だったらなんの事件も起きないままに解決編へと突入するってな寸法だもんね。それって台無しってやつじゃないの?
 果てしなく異端な彼女の存在をどう扱い処理して密室殺人事件を成立させるのか、これだけをとってみてもこの作品の目玉と言えると思うよ。心底に。

 もちろん見所はもちろんそこだけじゃない。
 この作品を読み終えたあなたは、人類最強の請負人・哀川潤の溢れんばかり――というより実のところ、あっさりと溢れかえって氾濫して、いーちゃん(語り部)をものの見事に押し流してしまっている――の圧倒的なまでに膨大な存在感にあてられて、天才エスパーのことなど記憶の片隅に放逐してしまっているかも。
 要するに、それほどまでに濃いメンツの盛りだくさんな作品ってわけ。流石は天才だね。


 クビキリサイクルは天才が集まる島での戯言ですが、ただし、天才は一人もいません。(アトガキより)