2/24の続き。

 

 モーパッサンの短編”ひも”あらすじ。読み返してみて少し訂正した。4行目が前のと違う。

 

 村に爺さんがいて広場で紐を拾った。

 同じころ、村長が財布を落とした。

 仲の悪い爺さんがチクった。

 財布が出てきたが、疑いはさらに深まった。

 爺さんは死ぬ間際までポケットから紐を出して、俺は無実だったんだって言っていた。

 

小説では死ぬまで紐を持っていた理由・状況が書いてある。

 

ではあるが、啓発本ではあえて以下のように教えていた。

 

 紐を握りしめていたばかりに、ましな選択肢をつかむ機会を逃した。

 くだらない紐なんか早く捨てた方がいい。

 

 それに対し、爺さんが拾った紐を捨てなかった理由をさらに考えてみた。

 

 紐は爺さんにとって生き甲斐だったのではないか?
 紐を人に見せ、身の潔白を訴え続けたまま、充実した人生を終えた。
 大事な証拠である紐を捨ててしまったら、無為な余生を送るしかない。
 捨てるには、あまりにも惜しい紐である。
 
 一生手放したくないこの紐のような宝物を持っている人は、世の中にどれだけいるだろうか?
 
 作家は不運な選択が幸福となり得る事をこの短編で示そうとした。
 という解釈も、モーパッサン的かもしれない。
 
付録
 

青空文庫

https://www.aozora.gr.jp/index.html

に国木田独歩訳がある。

下に青空文庫からコピペしたのを貼り付けた。

全文だと半角4000字に入らないので入るだけ貼り付けた。

糸くずという題になっている。

 

Internet Archiveにはフランス語がある。私は読めない。

 

https://archive.org/index.php

https://archive.org/stream/frenchshortstori00buffiala#page/80/mode/2up/search/LA+FICELLE

 71頁から



糸くず

LA FICELLE

モーパッサン Guy De Maupassant

国木田独歩訳

 

-------------------------------------------------------

【テキスト中に現れる記号について】

 

《》:ルビ

(例)市《いち》

 

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号

(例)近在|近郷《きんごう》

 

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定

(例)ゴーデルヴィル[#「ゴーデルヴィル」に二重傍線]

-------------------------------------------------------

 

 市《いち》が立つ日であった。近在|近郷《きんごう》の百姓は四方からゴーデルヴィル[#「ゴーデルヴィル」に二重傍線]の町へと集まって来た。一歩ごとに体躯《からだ》を前に傾けて男はのそのそと歩む、その長い脚《すね》はかねての遅鈍な、骨の折れる百姓仕事のためにねじれて形をなしていない。それは鋤《すき》に寄りかかる癖があるからで、それでまた左の肩を別段にそびやかして歩み、体格が総じて歪《いが》んで見える。膝《ひざ》のあたりを格別に拡《ひろ》げるのは、刈り入れの時、体躯《からだ》のすわる身がまえの癖である。白い縫い模様のある襟《えり》飾りを着けて、糊《のり》で固めた緑色のフワフワした上衣《うわぎ》で骨太い体躯《からだ》を包んでいるから、ちょうど、空に漂う風船へ頭と両手両足をつけたように見える。

 これらの仲間の中には繩《なわ》の一|端《はし》へ牝牛《めうし》または犢《こうし》をつけて牽《ひ》いてゆくものもある。牛のすぐ後ろへ続いて、妻が大きな手籠《てかご》をさげて牛の尻《しり》を葉のついたままの生《なま》の木枝で鞭打《しば》きながら往《ゆ》く、手籠の内から雛鶏《ひよっこ》の頭か、さなくば家鴨《あひる》の頭がのぞいている。これらの女はみな男よりも小股《こまた》で早足に歩む、その凋《しお》れたまっすぐな体躯《からだ》を薄い小さなショールで飾ってその平たい胸の上でこれをピンで留めている。みんなその頭を固く白い布で巻いて髪を引き緊めて、その上に帽子を置いている。

 がたがた馬車が、跳《は》ね返る小馬に牽《ひ》かれて駆けて往く。車台の上では二人《ふたり》の男、おかしなふうに身体《からだ》を揺られている。そして車の中の一人の女はしかと両側を握って身体の揺れるのを防いでいる。

 ゴーデルヴィル[#「ゴーデルヴィル」に二重傍線]の市場は人畜入り乱れて大雑踏をきわめている。この群集の海の表面に現われ見えるのは牛の角と豪農の高帽と婦人の帽の飾りである。喚《よ》ぶ声、叫ぶ声、軋《きし》る声、相応じて熱閙《ねっとう》をきわめている。その中にも百姓の強壮な肺の臓から発する哄然《こうぜん》たる笑声がおりおり高く起こるかと思うとおりおりまた、とある家の垣根《かきね》に固く繋《つな》いである牝牛の長く呼ばわる声が別段に高く聞こえる。廐《うまや》の臭《にお》いや牛乳の臭いや、枯れ草の臭い、及び汗の臭いが相和《あいか》して、百姓に特有な半人半畜の臭気を放っている。

 ブレオーテ[#「ブレオーテ」に二重傍線]の人、アウシュコルン[#「アウシュコルン」に傍線]がちょうど今ゴーデルヴィル[#「ゴーデルヴィル」に二重傍線]に到着した。そしてある辻《つじ》まで来ると、かれは小さな糸くずが地上に落ちているのを見つけた。このアウシュコルン[#「アウシュコルン」に傍線]というのはノルマン[#「ノルマン」に二重傍線]地方の人にまがいなき経済家《しまつや》で、何によらず途《みち》に落ちているものはことごとく拾って置けば必ず何かの用に立つという考えをもっていた。そこでかれは俯《かが》んだ――もっともかねてリュウマチスに悩んでいるから、やっとの思いで俯《かが》んだ。かれは糸の切れっ端を拾い上げて、そして丁寧に巻こうとする時、馬具匠のマランダン[#「マランダン」に傍線]がその門口に立ってこちらを見ているのに気がついた。この二人はかつてある跛人《ちんば》の事でけんかをしたことがあるので今日までも互いに恨みを含んで怒《おこ》り合っていた。アウシュコルン[#「アウシュコルン」に傍線]は糸くずのような塵《ちり》同様なものを拾ったところをかねての敵に見つけられたから、内心すこぶる恥ずかしく思った。そこで手早く上衣《うわぎ》の下にこれをかくした。しかる後、これを後ろのポケットの中に入れた、しかる後、何物をかさがすようなふうをして地上を見まわした。そして頭を前の方に垂《た》れて市場の方へと往《い》ってしまった。リュウマチスのために身体《からだ》をまるで二重《ふたえ》にして。

 見るがうちにかれは群集のうちに没してしまった。群集は今しも売買に上気《のぼせ》て大騒ぎをやっている。牝牛を買いたく思う百姓は去《い》って見たり来て見たり、容易に決心する事ができないで、絶えず欺《だま》されはしないかと惑いつ懼《おそ》れつ、売り手の目ばかりながめてはそいつのごまかし[#「ごまかし」に傍点]と家畜のいかさま[#「いかさま」に傍点]とを見いだそうとしている。

 農婦はその足もとに大きな手籠《てかご》を置き家禽《かきん》を地上に並べている。家禽は両|脚《あし》を縛られたまま、赤い鶏冠《とさか》をかしげて目をぎョろぎョろさしている。

 彼らは感じのなさそうな顔のぼんやりしたふうで、買い手の値ぶみを聞いて、売り価《ね》を維持している。あるいはまた急に踏まれた安価《やすね》にまけて、買い手を呼び止める、買い手はそろそろ逃げかけたので、

『よろしい、お持ちなされ!』

 かれこれするうちに辻《つじ》は次第に人が散って、日中の鐘が鳴ると、遠くから来た者はみな旅宿《りょしゅく》に入ってしまった。

 シュールダン[#「シュールダン」に傍線]の大広間は中食《ちゅうじき》の人々でいっぱいである。それと同様、広い庭先は種々雑多の車が入り乱れている――大八車《だいはちぐるま》、がたくり馬車、そのほか名も知れぬ車の泥にまみれて黄色になっているのもある。

 中食の卓とちょうど反対のところに、大きな炉があって、火がさかんに燃えていて、卓の右側に座《すわ》っている人々の背を温《あたた》めている。雛鶏《ひなどり》と家鴨《あひる》と羊肉の団子《だんご》とを串《さ》した炙《や》き串《ぐし》三本がしきりに返《かや》されていて、のどかに燃ゆる火鉢《ひばち》からは、炙《あぶ》り肉のうまそうな香《かお》り、攣《ちぢ》れた褐色《とびいろ》の皮の上にほとばしる肉汁の香りが室内に漂うて人々の口に水を涌《わ》かしている。

 そこで百姓のぜいたくのありたけがシュールダン[#「シュールダン」に傍線]の店で食われている。このシュールダン[#「シュールダン」に傍線]というは機敏な奴《やつ》で一代の中《うち》に大分の金を余した男である。

 皿《さら》の後《あと》に皿が出て、平らげられて、持ち去られてまた後の皿が来る、黄色な苹果《りんご》酒の壺《つぼ》が出る。人々は互いに今日の売買の事、もうけの事などを話し合っている。彼らはまた穀類の出来不出来の評判を尋ね合っている。気候が青物には申し分ないが、小麦には少し湿っているとの事。


EOF.