バカ息子 ~『潮時だ!』~ | TWO ALONE ~二つの孤独~ 

バカ息子 ~『潮時だ!』~

お店に入って鍋物を頼んだ大門は確かに見事な食べっぷりで、ご飯をかきこむように食べながら鍋をつついていたんだけどさ、

それを眺めながら、太一はただ黙ってビールを飲んでいたんだ。

それを見た大門が

「アンタは食べないのか?」 と言うと

「これ(ビール)だけで十分だ!」 そう答えてね、

「しかし気持ちいいほどの食べっぷりだな。

ところで、なぜ俺をメシに誘った?」

そう尋ねた太一に大門は

「ハッ! こういうのは一人で食っても美味くないだろう。」 と、

なぜか自分は豆腐や野菜ばかり食べているのに、太一には

「ほら、アンタは細いからもっと肉を食わなきゃダメだ!」 なんて言ってね。

そうしているウチに、さっきの 「田舎に帰る」 って話しの続きになって、大門は言うんだ。

「最初はなんて事ないケガだったんだ、実際すぐにリングに復帰出来たしな。

だが、いざリングに上がると思ったように身体が動かねえんだ・・・ 」

大門はそうつぶやいて、そこから “ある日の試合” の事を回想するんだ。

相手のチョークスリーパーが自分の首にガッチリ決まって、失神しかけて思わずタップして負けを認めた試合・・・ しかも、その相手はデビューして一ヶ月程度のルーキーだったこと。

彼は 「誰もいないリングの上で思ったんだ 『潮時だ!』 と」 そう言ったんだ。



~つづく~