『男って、いい女の前ではこういうものだと思う』 ~前編~ | TWO ALONE ~二つの孤独~ 

『男って、いい女の前ではこういうものだと思う』 ~前編~

以前、江戸の町を舞台にしたお話しでこういうのがあったよ。

主人公はある寺のお坊さんで、誰にでも分け隔てなくやさしい、でも・・・ 女の人には特に優しい っていうような奴でさにひひ

その日も、お坊さんのくせに遊郭に入り浸っていて、それで見かねた ”お目付け役” の少年が馴染みの遊女のいる店まで迎えにきたってわけなんだけどさ。

そんな帰り道、雨の中に 頭から白い布をかぶって うつむき加減に立っている女性がいたよ、主人公はその女性にこう言って声をかけたんだ。


『この雨の中に立っていたら、身体が冷えちまいますよ。

もし商売してるんじゃなけりゃあ、送ってってさしあげやすよ。』


ってね、すると彼女は顔をあげて、左目にかかっている前髪をかきあげてみせたよ。

その左目はさ、周りの皮膚がただれて・・・ ひきつれて、そのせいでふさがっていたよ、とても綺麗な人だったから・・・逆に、その左目を見てしまうと恐ろしげに見えたんだ。

”お目付け役” の少年は、声をあげることも出来ずに卒倒したけど、主人公はまったく平気で 「いやぁ、申し訳ねえ。こいつはまだ修行が足りなくてねえ」 なんて苦笑いしながら謝るんだ。

すると、彼女は 「わたしは近くの見世物小屋から逃げてきたのですが、このような顔なので何処にもいけません。

よかったら、一晩だけ宿を貸してくれませんか?」 そう言ってね、主人公は自分の寺に彼女を連れてくると、「女の人は体を冷やしちゃいけませんよ」 そう言ってお風呂を焚いてくれたんだ。

そして、彼女は言うんだ 「よかったら一緒に入りませんか?」 って。

で、「こんな顔の女と一緒に入るのは嫌ですか?」 そう言うんだけどね、言い終わるより早く、主人公は服を脱いで入ってきたよ。

それでさ、「やっぱ風呂はいいねぇ、こんな美人さんと一緒ならなおさら極楽だ」 なんて、能天気なことをいってさ。

すると、彼女は自分の左目のいきさつを話してくれたよ。

どうやら彼女は、町人の娘で、あるお武家さんの次男坊と恋仲になったらしいんだけどさ、それに子供も出来たけど、結局は町人の娘とお武家さんでは一緒になることは出来なくてさ、そうこうしているうちにそのお武家さんに縁談の話しが持ち上がったんだ。

それでそのお武家さんのお兄さんが、彼女が邪魔になって毒を盛ったそうなんだ、その毒がもとで彼女の左目は今の状態になったそうなんだけどね。

そんな話しをした後に、彼女は言うんだ。


『わたしは あの人 のためならいつでも身を引いたのに。』


そう言うと、急に暗い顔をしてこう言うんだ。


『わたし、  わたしを一人にしたことが許せない』


と。




     ~つづく~