私が特になにも明記しなかったら邦義がアメリカから帰ってきて……の時空だと思ってください。
「貴ちゃん、今日休みだよね?」
「うん。なんで?」
「じゃ、行こうか。」
「どこに?」
「内緒。水野たちは先に行ってるから俺の運転で行くよ。」
「それはいいんだけど。」
邦義が車に俺を乗せると楽しそうにエンジンをかけて何処かに向かう。そういえば、先週くらいにどっかから電話が来て以来、すごいご機嫌なんだよな。あの電話はなんだったんだろう。ふと景色を見ると森だ。公道から少し細めの道に入ると、なんだか道路が新しいきがする。最近できた道なのだろうか。
「この道路新しい?」
「あぁ、私道だからね。この先の目的地のためだけの道だよ。」
「へぇ。」
「この道を曲がると小さな湖があって、ピクニックできそうだから今度重原たち誘ってピクニックしようか。」
「いいね。由美ちゃんとかも誘う?」
「ピクニックは多いほうが楽しいからね。ロシアンルーレットやろうよ。」
「はは、重原がひくやつだ。」
「そろそろ着くよ。」
「ん?」
邦義がそういった瞬間に視界が開け目の前に屋敷が現れる。邦義が好むフランス式のシンメトリーな庭の先に本邸とは趣の違う見栄えのある豪華でそして品のある美しい屋敷だ。
「ここって……」
「そう、貴ちゃんへのプレゼント。俺たちの家だよ。」
「邦義だ。邦義らしい家だ。俺ここに住んでいいの。」
「当たり前じゃん。誰のために建てたと思ってるの。」
車を停めて庭に足を踏み入れると、以前邦義が『やっぱりフランス式の庭がいいかなぁ』と写真を見せてくれたのを思い出す。右を見て左を見て同じような景色が広がっている。でも、君は最後までイギリス式の庭も諦めてなかったような……
「結局フランス式にしたんだね?」
「あぁ、家をね一回り小さくして、裏庭をイギリス式のローズガーデンにしたんだよ。」
「そうなの?」
「やっぱり、川が流れてて、橋があってアーチをくぐったらローズガーデンってのが好きなんだよねぇ。裏庭はそれができそうだったからそうしてもらった。後でそこでお茶しよう。まだまだ草木が育ってないからこっちほど見栄えはないけど。」
「……庭が成長するのを見守る感じ?」
「そうだね。」
「セキュリティゲートなかったけど、それはどうするの?」
「ああ、それはこれから。まだまだ業者出入りするからつけてないんだ。だから、やばいものはまだ本邸においておいてね。」
「なるほど。」
とはいってもそんなにやばいもの俺はもってないけれども。この間の電話はあらかた完成したので住んでも大丈夫という連絡だったらしい。水野さんたちは水回りやら電気やらの確認のため先にこちらに来ていたらしい。
「坊っちゃん。」
「どうだった?」
「大丈夫そうですね。電気はソーラーパネルからほとんど賄えているようですし、水も安全確認済です。ガスも確認できました。あと朗報です。」
「なに?」
「邦義様が買った範囲に温泉ありそうです。」
「まじ!?どうせ整地するからって調査させてみたけどラッキーじゃん。」
「すこしはずれてますけど、こっちにもひけそうです。」
「どのへん?」
「この辺……」
「ほー……たしかにここからは遠いけど、作っちゃうか。」
「まぁ、かかるお金は同じですしね。」
「なに作るの?」
「温泉施設。」
「……へ?」
「温泉掘ると1億はかかるから、ちょっとは儲けないとね。」
なにやら規模がおかしい気はするが、邦義がそれで採算がとれると言うならきっととれるんだろうな。距離があるのでかけ流しは難しいが、温泉の水をこの屋敷にも持ってこようとしているようだ。邦義、温泉好きだもんなぁ。というよりも館花の人たちみんな温泉が好きだ。俺も嫌いではないけども。
「……なんか、不思議な感じする。」
「そう?」
「うん。なんか、本当に家を買ってくれる日が来るなんて。」
「まあ、二人の家だけどね。」
「それが一番嬉しい。」
「……ふふ、よかった。」
「中入って良い?」
「この家に関しては俺への許可もいらないよ。」
「そうなんだけどさ。」
屋敷の扉を開けるとエントランスホールだ。ここで開かれるだろうパーティーを想像するとおもわず感嘆の声が出てくる。館花の家では六花さんが様々なテーマのパーティーをするので照明があえてLEDのシンプルなものだった。シャンデリアをつけ外ししているところを見たことがある。でも、ここは邦義が選んだものだから、大きくて立派なシャンデリアが真ん中を陣取り、明かりがついた時はまるで宝石自身が光を発しているようだ。
「流石、派手なもの扱わせたら右に出る者はいないよね。」
「やっぱり派手だった?」
「派手だけど、上品だよ。」
「なら良かった。」
「うん、すごい邦義らしい。」
俺がそう言うと安心したのか君が優しく笑う。実はまだ家具がそんなに入ってなくてと言うと俺たちの寝室になる部屋に案内してくれる。そこには大きめのベッドだけがおいてあった。
「…家具にこだわりすぎてベッドとソファーくらいしかまだ来てないんだよね。あと3ヶ月くらいで揃うらしいから本格的な移動はそれからかな。」
「なるほど。」
先程の派手さとは打って変わってシンプルなデザインの家具に挿し色で邦義の好きな金色が使われている。君のそういう絶妙なバランス感覚は本当にすごいと思う。
「…気に入ってくれた?」
「もちろん。邦義がくれるものはなんだって気にいるよ。」
その言葉を聞いて満足気に笑う君が何よりも大切な宝物だ。
1億ならすぐに出せる男邦義です。