ベルグの毒理学教室 第2回 ~テトロドトキシン~ | Twistaneのブログ

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東京理科大学のサークルです。週二回、化学に関連のある内容で勉強会をしています。

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  前回のサリンについての特集はいかがだったでしょうか?今回は人間が作り出した毒ガスではなく、生物が体内に持っている毒をご紹介します。

  テトロドトキシンはフグの毒として有名で、聞いたことのある人もいるかと思います。フグのほかにも、ヒョウモンダコやハゼやイモリの一種もこの毒を持っています。ただ、これらの生物が自らテトロドトキシンを作っているわけではなく、ある種の細菌が作った毒素を体内に蓄積していることが知られています。1)


 テトロドトキシンがターゲットとするのは、神経細胞や筋細胞です。これらの細胞はその機能のために、状況に応じてナトリウムイオン(以下、
Na+と略します)をはじめとするイオンを出し入れして適切な濃度になるように調整しています。

 どのように調整しているかという点ですが、細胞内と外界を隔てる細胞膜はイオンを通さないため、「イオンチャネル」という特別な”関所”のようなものが細胞膜を貫通するように存在していて、必要に応じてチャネルを開閉しています。上記の
Na+を通すイオンチャネルはNaチャネルと呼ばれています。2)  (図1)

図1




 ところが、テトロドトキシンは低い濃度でも、速やかに細胞の外側からナトリウムチャネルを塞ぐため、Na+が出入りできなくなります。(図2) このため、神経細胞や筋細胞はNa+の濃度が調整できなくなって麻痺し、低血圧や呼吸停止となって死に至ります。人間での致死量はわずか2 mgです。2)




 今のところ目立った臨床への応用は無いようですが、非常に低い濃度のテトロドトキシンで神経を麻痺させることによって、副作用の心配なく痛みを抑制しようという研究もあるようです。

  今回のフグ毒の特集は楽しんでいただけたでしょうか?関東ではそろそろフグの季節ですが、フグを食べるときには毒の作用する仕組みと先人たちの尊い犠牲を噛み締めて味わいたいですね。 それでは次回もお楽しみに!



参考文献

1) 『化学物質の小辞典』 伊藤広・岩村秀・斎藤太郎・渡辺範夫 (岩波ジュニア新書・2000) p.155

 

2)  「フグ毒」-『脳科学辞典』楢原敏夫 -『脳科学辞典』楢原敏夫 




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