30分程経った頃、父から簡単でいいから入院グッズを持って来て欲しいと連絡が入った。
軽い検査入院位に思ったけど・・・切電間際、父の様子がおかしい。
「お前たち、今回は覚悟しなあかんかもしれへんぞ」
何を言ってるんだろう…意味が分からない。いや、意図することろを理解したくない自分がいた。
兄と共に、すぐ戻るつもりで要所要所の電気やエアコンを付けたまま家を後にした。
病院について、ある女性が苦しそうな形相で横たわる病室に通された。
誰か分からない。
本当によそのおばあちゃんか誰かだと思ったけれど、間違いなく私の母だった。
ほんの一時間前まで、オシャレに気を取られていた母だとは到底信じられない。
うそやぁ…こんなのお母さんじゃない…
胸が押しつぶされそうになりながら口からこぼれていた。
母は明らかに光を失いかけている。
初めて死相が出ているというのを、肌身に感じた瞬間だった。
検査入院なんかでおわるどころか、ただ事ではないのが誰の目にも見て取れた。
お母さん、きたよ。 苦しい?息がしにくいの?…
何と声をかけても反応はなく、もはや私たちは母の世界には存在していないかのようだった。
ただただ母は辛そうな顔で「いたい…くるしい…」と
この二言をどこかを必死に見つめながらつぶやき続けていた。
心筋梗塞の疑いあり。
循環器系の得意なところに転院する必要が有るとの事だったが、
あいにくあちこち満床で受け入れられないと言われる。
岸和田にある病院なら、信用もおけるし受け入れ可能だと言う。
ただ、近くはない。朝まで待って近い病院へ行くか、遠くても今行くか・・・?
迷う余地はない。
母は兄が付き添いながら救急車で搬送。
その後を、父と私はそれぞれ車で追った。
おそらく人生であんなに落ち着いて運転しろと自分に言い聞かせながら運転したことはない。
あふれる涙で視界が揺らめくのを、何度ぬぐったか分からない。
夜中の12時過ぎの事だったかな
到着するまで1時間半程車をとばすなかで、母は2度の心室細動を起こしていたらしい。
いわゆる「心臓のけいれん」のことで、
上手く血液や酸素等が運ばれず脳や臓器に大きなダメージをあたえる状態。
人のカラダは、とにかく常に循環してめぐっていなければ成り立たない。
搬送先の病院へ着くなり、頼もしいスタッフ達により検査が進められる。
暫くしてインフォームドコンセント。
大動脈解離だと告げられる。
心臓の大動脈が破裂し、鼓動の度に血管が血圧によりどんどん裂けていく。
このまま放置すれば2時間以内には確実に100%死亡。
オペの成功率は30%以下。
術後植物人間状態になる確率が極めて高い。
そんなような内容だった。
命の散り際まで美しくありたいと常々語っていた母。
無駄に肉体にメスを入れる事は憚られたが、
やはり30%弱の可能性に掛けずにはいられなかった。
開胸してみて、無理だったらすぐに閉じます。その場合はすぐにオペ室から出てきます。
恐怖に近い時間の始まりだった。
ただただ無事にオペの成功を祈るしかできない。
どうか途中でオペ室のドアよ開かないで・・・
夜中の2時半頃のお話
続く