【別バージョン】

一人の少女が赤い海の中で
その生涯を終えた

私は彼女が空を飛んだのは
この世の中が嫌になって
楽を選んだからなのだと
思っていた

路面に広がる赤い海…

遠くで響き渡る 誰かの悲鳴…
悲鳴を聴くのは
なんか…懐かしい気がした

彼女は  その時 一体
何を思っていたのだろうか

夏の日差し
微かに聴こえる蝉の声
空気はとても澄んでいた

太陽降り注ぐ ビルの屋上
眼下に広がる街を眺め
彼女は一人 そこに立っていた

風になびく長い黒髪…セーラ服

彼女は一つの決断をしていた

私はずっと疑問を持って生きてきた

その結果を 出すための結論が
この方法になってしまった
のかもしれない

最後に映る景色が いつもより
少し輝いてみえる気がした

なんて尊くて美しい
青空なのだろう…

涙が頬を伝った

「でも、ここは私の居場所じゃないんだ」

私は何のために生まれたのか?

私は誰なのか?

誰が私を必要としてくれるの?

彼女は気づくことができなかった

自分がこの世界に生まれた
本当の意味を

みんな誰もが 生まれた時
この世で果たすはずだった
使命や目的を忘れるんだ

それは仕方ないことなんだ

これは世界のルール 命のルール
自ら気づくことが
できない人が多い
それが現実だ

彼女は街に背を向けると
ゆっくりと目を閉じて
両手を大きく広げた

死ぬことは怖いことだろうか?

死への恐怖とは何処から

生まれるものなのだろうか

高鳴る鼓動 滑り込む呼吸の音

思い残すことは何もないなんて
言葉は嘘だと思う

「ここではない何処かへ」

彼女は笑って そう呟いた

身体が落下していく瞬間
私は彼女になっていた

一瞬 時が止まった感覚があり

全てから解放される瞬間を感じた

私の魂が 昇華されてゆくのを感じた

世の中と繋がっていた身体が
解けて軽くなっていく

不思議と恐怖はなかった

目を開けると 目の前に
大きな青空が広がっていた

雲一つない空は
自然と宇宙が生み出した
神秘だと呼んでおこう

私は一体 何処を目指していたのか?

何処へ帰りたかったのだろうか?

何を目指してこの結果に
至ったのかはわからない

伸ばした手は 空には届かなくて

器という身体が形をなくしても

私の魂は変わることなく
また私として この世界の何処かに
生を受けることを
本能のどこかで知っている
 
薄れてゆく意識の中で

誰かの声が聴こえた

「それは 反則だよ?」

地面から叩き上げられるような
感覚で目が覚めた

私は何度も この夢を見ている

その夢の意味を知ったのは
つい最近のことなのかもしれない

私には 彼女が何処を目指して
空を飛んだのかがわかる

何を求めていたのかがわかる
そう 今だからわかる

それは 目覚めによって
知った真実だった
彼女が私だから
私は彼女の気持ちが
全部わかるのだ

赤い海に横たわる彼女も
気づいたんだ

「そういうことだったんだ」って

だから
今の私は生きて存在しているだけで
良いんだよって言われたりするけれど

私は私の使命を生きるために
逃げずに向き合いたい
必ず叶えたい

本来の自分と 魂の目的を知り
第二の人生へと歩みだした今

会社の窓から見えるビルの屋上を
見つめては 生きた証の形の
違いを思い起こす

夢の中でまた彼女に出会った

屋上に一人佇む 私を
私は力いっぱいに抱きしめた

救うことのできなかった私に
今の私だから
伝えられる言葉がある

「私は精一杯生きるから。
 目的を果たして証を残すから。
 どうか見守っていて欲しい。」

薄っすらと見えた彼女の笑顔

「あなたならきっと叶えられる」

そう言ってもらえた気がした