まず対面証券会社の歴史を簡単に振り返ってみると1980年後半から1990年前半までのバブル期には対面証券は史上最高の収益を計上した。株屋と言われ、金融業界でも底辺に見られていた時代に海外進出を果たし、ムーディーズ等格付け機関からAaaを得た時代があった。

バブルが崩壊し、損失補填事件、総会屋事件、飛ばし事件、山一證券、三洋証券の破綻を経て、再編を繰り返しながら現在の姿がある。

三菱UFJ証券の歴史を見ると非常に面白い。おそらく20数社の証券が合併している。現在、業界2位の大和証券は一時期大和SMBC証券となり三井住友銀行の傘下に入ったが、その後経営方針を巡って再び別れ、SMBC日興証券は、日興ソロモン証券、日興シティ証券、そしてSMBC日興証券となった。過去から独立性を一貫して保っている準大手以上の証券会社は野村証券と岡三証券だけである。

 株式売買の手数料自由化が始まる前は、固定手数料であり、営業マンは9時から15時までデスクに座り、ひたすら株売買の電話を掛けまくった。そして超短期売買を繰り返すことで手数料を上げていた。そして手数料自由化以降、ネット証券の台頭もあり、販売の中心は投信販売や仕組債販売など高収益商品に向かった。

 対面証券でも、野村證券、大和証券のような大手証券は海外ビジネス、M &Aなど投資銀行業務、トレーディング業務、機関投資家営業などの本社機能がある。内部では花形であるが、グローバルプレーヤーとしては2流であり、収益の中心(利益の中心ではなく)はやはりリテールである。そして対面証券がとてつもなく厳しいのは、リテール中心のビジネスモデルにして、リテールが回復不能かつ現在も将来も壊滅的だからである。まず、銀行と証券会社の違いは、銀行はストックビジネスである。代表的な商品は融資で、融資を出してしまえば、毎日チャリンチャリンと金利収入がある。それにより支店を所有し、賃料と人件費をカバーする計算が立つ。一方、証券はフロービジネスであり、取引をしない限り収入はない。支店、人件費を維持するためには恒常的に取引をする必要がある。そういう意味では、銀行は不動産賃貸業ビジネス、証券は不動産仲介業に似ている。

 対面証券の営業マンにとっての逆風は、顧客の高齢化である。準大手証券クラスでは平均顧客年齢が75歳くらいだと聞いたことがある。若い世代はネット証券を好むため、高齢者を顧客にする。そして現在の主要商品は投資信託、仕組債、ブラジルレアル、トルコリラなどの売出債であり、金融庁は、説明責任を求める。高齢者がデリバティブ内包商品を理解できるのか?ほぼ無理である。また75歳の高齢者が長期投資に向いているのか?何のために資産を増やそうとするのか?生存期間に生活を維持するためである。このような商品は乗り換え、追加販売、満期が来れば再投資の繰り返しなので、いつか大損する。現状ではブラジルレアル債、トルコリラ債は数分の1、投信も価値が半分の商品はごろごろ存在し、新型コロナショックで顧客の資産価値は激減した。高齢者に複雑な商品を販売して大損すれば、必ず適合性の原則にぶち当たる。適合性の原則というのは、この人にこんな商品を売っていいの?というのとで、例えば80歳の高齢者に30年満期の商品を売ること、認知症の人に理解不能な商品を販売することであり、営業マンは苦し紛れにやってしまう。高齢者の家族は、直接会社に、金融庁を通して、弁護士を通して抗議しADR、裁判になる。

 また商品性にしても、株や債券は当然として、投信なども、どこの証券会社で何を買っても、何ら変わり映えがないことである。スーパーの野菜と同じで違いがあるとすれば産地くらい。金融商品も組成しているアセットマネジメント会社や外資系証券会社は違えど、販売商品がほぼ同じような中身であれば、手数料が安い方がいいに決まっている。対面証券の営業マンが手数料に勝つには、誠意、しつこさ、かわいがられる等、人柄で勝負するしかない。

 対面証券にも銀行系証券と独立系証券があるが、どちらが楽といえば圧倒的に銀行系証券である。その違いは、銀行系証券は銀行顧客を紹介されるが、独立系証券は独自で顧客開拓しなければならない。銀行系証券は内部で銀行口座から証券口座に資金移動できるが、独立系証券は、顧客がいちいち銀行口座から振込手数料を支払って証券口座に現金の振り込みをしなければならない。銀行系証券は銀行の信用力があるので顧客に信頼されやすいが、独立系証券は、いかがわしく見えてしまう。

 またいまだに中小証券ほど、いまだに、稼ぐものが偉い、稼げれば何をやっても良いという昭和の風潮で、セクハラ、パワハラも日常茶飯事にあり、転職率は非常に高い。

 以前、野村證券の若手営業マンに自分の売りは何かと聞いたことがあり、当然「営業力」と答えた。営業力は自己申告であるが、自動車ディーラー、百貨店の外商に聞いても、おそらく「営業力」と答えるだろう。営業力はITの時代でも必要であると認めるし否定派しないが、将来的に「営業力」だけが売りでは生きていくのは大変だろうと思う。

 本日、SMBCとSBIの提携の話が出たが、むしろ楽天証券買収破断の方が注目を浴びている。楽天は価格次第で楽天証券を売る意思があったことは驚きだ。メガバンクが急速にデジタル化にシフトしていていること。ネット証券自体も多すぎて再編統合が予想されることを考えれば、独立系証券は、おそらく業界内の再編だけではなく、例えば野村證券がSBIに買収される、あるいはメガバンクに吸収される(以前、三菱UFJによる野村證券買収の話があったように)ことは近い将来、現実化するに違いない。