ネットって、時々とても心の距離を縮めてしまう事があると思う。
実際に会ったら絶対に言えないような事も、話せてしまう気楽さがあると。



10代後半から20代前半、私は文章ではなく、実はもっぱら絵の方を描いていた。
友人の1人が、PBBサイト、つまりオリジナルのリレー小説サイトを運営するというので、イラストとサイト用の素材を提供がてら、副管理人的な感じで私も参加する事になった。
中学時代は小説を書いていたものの、自分の文章能力の無さに酷く厭気がさして、けして上手くもないイラストに、なんとなく逃げていた。
それでも、いきあたりばったり的に、他人と一つの物語を作り上げていく作業は楽しかった。
時にはBBS上ではなく、チャットでリアルタイムに話しを組み上げるのも楽しかった。


そこで出会ったのがA君で、彼はとにかく語感が良いというか、柔らかくて繊細で、印象的な文章を書く人だった。
どちらかといえば硬質でド下手な私の文章とは対照的で、サイトの中でも群を抜いて巧みな文章を操る人だった。
たまたま夜中のフリーチャットで二人きりになって、お互いに好きな作家が同じだとか、本や映画の話しでなんだか妙に意気投合して、MSNのメッセなんかでもやりとりするようになった。
年齢も近く、お互いに家庭環境問題がある事、心に響いた映画の台詞、そういった様々な事柄が、お互いの気持ちを近づけた。
携帯の番号とアドレスを交換する頃には、今思えば笑ってしまうような、幼さ故の繊細な胸の内、絶対に他の誰にも言えない、心の内側の弱い部分や怯えを、お互いに打ち明けるようになった。
翌日バイトだっていうのに、朝まで電話した。
電話しない日はメッセやチャット、家にいない日でもメールや電話をして、一緒にいた仁吉さんにえらく文句を言われた事も少なくなかった。

私達の関係は、半分恋愛に近かったのだと思う。
ふと会話の最中に言葉が途切れ、寂しい気持ちが胸を刺す時があって、そんな時はきまって「会いたいねぇ」だった。
お互いそれが難しい時期だったし、実現はできなかったけれど。


そんな関係が2年くらい続いた。
A君との仲が急速に冷えたのは、私に好きな人が出来てから。
私の人生で、多分最初で最後なんじゃないかってくらい、生まれて初めて感情に溺れる恋をした。
A君が実際の所、私をどう思っていてくれたのかわからない。
彼は突然私に冷たくなった。
なのに、初めて「会いたい」じゃなくて、「会おう」と言われた。
でも、彼が旅行の日程に選んだG.W.は、私の職場の繁忙期だったので、それに応える事は出来なかった。
だけど他の日でも、多分会いたくなかったと思う。
お互いの顔は知っていたけれど、実際に顔を合わせて話すのは気恥ずかしかったし、今の関係と違う形になるのも怖かった。
結局、それからしばらく私達の関係はほとんど途絶えてしまったのだけれど。



それでもお互いに少し大人になって、またささいなやりとりを交わすようになった。
年賀状や誕生日プレゼント、旅行のお土産。
たまたまメッセでお互いの名前を見つけると、そのまま朝まで会話するのも珍しくなかったし、ちょっとしたメールから長電話に発展する事もあった。
頻繁ではないけれど、数ヶ月に1度くらい。
半年以上間が空くこともあれば、数週間っていう時もあったり。
でも、昔とは違って、軽くて居心地の良い距離感だった。
少なくとも、昔よりも笑いが絶えなかった。
「いやー、会いたいね」「そうだねー」なんて話しが、また出るようになった。
会おうと思えば、今なら多分会える。
でも、やっぱり気恥ずかしいとか、お互いになかなか時間がとりにくいとか、なんとなーく実現できなかった。
毎年、「今年こそは」って言いながら。



どうして無理してでも会っておかなかったんだろうなって、後悔してもきりがない。
最後にした話しがなんだったかもよく思い出せない。
なんで、ホントになんで、会っておかなかったんだろう。
私は馬鹿だ。


震災の被害は大きいけれど、それでも自分の大切な人たちはきっと無事だって、どっか信じ切っていた。
実際、他の友人は無事だったから。


どうして、こんな事受け止められるだろう。
でも私より、もっと辛い思いをしている人が大勢存在する。
いったい、何が起きているんだろう。
誰が、何をしたっていうんだろう。
私は、どうしたらいいんだろう。