マクガバンレポート


背景と目的

1977年にアメリカ合衆国上院栄養問題特別委員会が発表した「マクガバンレポート」は、アメリカ国民の食生活と健康問題の関連を調査し、慢性疾患の予防を目指して作成された報告書です。当時の上院議員ジョージ・マクガバン(George McGovern)が委員会の委員長を務めていたため、このレポートは彼の名前を冠しています。


 内容と推奨事項

マクガバンレポートは、アメリカ人の食生活が慢性疾患、特に心臓病やがんの発症に大きく影響していると結論付けました。以下はその主な推奨事項です:


1. 脂肪の摂取量を減らす

   総カロリーのうち、脂肪の割合を30%以下に抑えることを推奨しました。これは特に飽和脂肪酸の摂取を減らすことを目的としています。


2. 砂糖の摂取量を減らす

   精製された砂糖の摂取を控えるように促しました。砂糖の過剰摂取は肥満や糖尿病、心血管疾患のリスクを高めるためです。


3. 動物性食品の摂取を控える

   肉、乳製品、卵の摂取を減らし、植物性食品を増やすことを推奨しました。特に赤肉と加工肉の摂取を制限するように促しています。


4. 繊維質の多い食品を摂取する

   全粒穀物、野菜、果物の摂取を増やすように推奨しました。食物繊維は消化器系の健康を維持し、便秘の予防や大腸がんのリスクを低減する効果があります。


5. 塩分の摂取量を減らす

   高血圧のリスクを減らすために、塩分の摂取を控えるように提案しました。高血圧は心血管疾患の主要な危険因子です。


影響と評価

マクガバンレポートは、アメリカ国内外で食事ガイドラインの基礎となり、多くの人々が健康的な食生活を意識するきっかけとなりました。しかし、肉や乳製品業界からの反発も強く、一部の推奨事項はその後の報告書で修正されることとなりました。特に、脂肪の摂取制限に関しては、さらなる研究が行われ、その後の栄養ガイドラインに影響を与えました。


チャイナスタディ


背景と目的

「チャイナスタディ」は、栄養学者T・コリン・キャンベル(T. Colin Campbell)とその息子トーマス・M・キャンベル(Thomas M. Campbell)が主導した、中国における大規模な栄養研究です。この研究は1980年代に開始され、中国政府とオックスフォード大学の協力の下で実施されました。


内容と主要な発見

チャイナスタディは、中国の65の県で調査を行い、栄養と健康に関する膨大なデータを収集しました。主な発見は以下の通りです:


1. 動物性食品の摂取とがんの関連

   動物性食品の摂取量が多い地域では、がんや心臓病などの慢性疾患の発症率が高いことが確認されました。特に、牛乳や肉の消費が多いと乳がんや大腸がんのリスクが高まることが示されました。


2. 植物性食品の摂取と健康

   植物性食品の摂取が多い地域では、慢性疾患の発症率が低く、全体的に健康状態が良好であることが明らかになりました。特に、野菜や果物、全粒穀物、豆類の摂取が多いと、がんや心血管疾患のリスクが低減されることが確認されました。


3. 低タンパク質食とがんのリスク

   動物性タンパク質の摂取を減らすことで、がんの発症リスクが大幅に低下することが示されました。これは、動物性タンパク質が成長ホルモンやインスリン様成長因子(IGF-1)のレベルを上昇させ、細胞増殖を促進し、がん細胞の成長を助長する可能性があるためです。


影響と評価

チャイナスタディは、食生活と健康の関連を示す重要な研究として広く認識されています。この研究に基づいて、T・コリン・キャンベルは、動物性食品の摂取を控え、全粒穀物、野菜、果物、豆類を中心とした食事を推奨しています。この研究は多くの人々に影響を与え、特にプラントベースの食生活の普及に貢献しました。


ただし、チャイナスタディも批判にさらされることがあります。特に、一部の研究者や医師からは、データの解釈や研究方法に関する疑問が提起されています。たとえば、相関関係と因果関係の区別が不十分であると指摘する声や、特定のデータを選択的に強調しているという批判があります。それでもなお、多くの専門家がこの研究の重要性を認めており、食事と健康の関係を理解する上で貴重な情報源となっています。


結論

マクガバンレポートとチャイナスタディは、それぞれ異なる視点から食生活と健康の関連を探求し、食事ガイドラインや栄養学の発展に大きく貢献しました。マクガバンレポートはアメリカにおける慢性疾患予防のための食事ガイドラインの基礎を築き、チャイナスタディは植物性食品の摂取が健康に与える重要な影響を示しました。両者の知見は、現代の食事と健康の理解において重要な位置を占めています。


マクガバンレポートとチャイナスタディの両方は、食事と病気の間に強い関連があることを示しています。ただし、「因果関係」を直接証明することは困難であり、多くの研究がその関連性を示唆しているに過ぎません。


因果関係と相関関係

因果関係とは、ある要因(この場合は特定の食事パターン)が直接的に他の要因(病気の発症)を引き起こすことを意味します。

一方、相関関係は、二つの要因の間に一定の関係が存在することを示しますが、それが必ずしも一方が他方の原因であることを意味するわけではありません。


マクガバンレポート

マクガバンレポートは、アメリカ人の食生活の特定の要素(例えば、高脂肪食や高砂糖摂取)が慢性疾患のリスクを高める可能性があることを示しました。しかし、このレポート自体は観察研究に基づいているため、因果関係を直接証明するものではありません。ただし、その後の研究がこれらの関連を支持し、食事と健康のガイドラインに影響を与えました。


チャイナスタディ

チャイナスタディも同様に、動物性食品の摂取とがんや心血管疾患の発症率との間に強い相関関係を示しました。特に、動物性タンパク質が高い摂取量は、特定のがんの発症リスクを増加させることが示されました。しかし、これも観察研究であり、因果関係を証明するためにはさらに厳密な実験研究が必要です。


結論

マクガバンレポートとチャイナスタディは、食事と病気の間に強い関連があることを示しており、その知見は食事ガイドラインや栄養学の発展に大きく貢献しました。これらの研究により、特定の食事パターンが健康に与える影響についての理解が深まりましたが、因果関係を完全に証明するためにはさらなる研究が必要です。それでもなお、これらの研究の知見は、健康的な食生活を促進するための強力な根拠となっています。