「悩みのるつぼ」
朝日新聞 be 2026.2.7
「障害のある弟と暮らす母が」
女性 30代
社会学者 上野千鶴子さんの回答
「日本も『中福祉社会」に 権利使って」
相談内容:
知的障害のある30代の弟と同居する60代の母がいる。両親は20年前に離婚。
父は生活費を入れていないが、2人は週末に会い続けている。
数ヵ月前に弟が障がい者雇用で働いていた会社を解雇された。
母は「私が死んだら弟を誰が見るのか」「生活が成り立たない」と深夜早朝を問わず、電話をしてきて泣いたり怒鳴ったりする。
母亡きあとは弟の近所に住むか同居して支えるつもりだと伝えているが、
「父と結婚したのも生活費をもらう約束をしなかったのも自分の責任ではないか?」という苛立ちもある。「お金がない」と言いながら、母は旅行やネイルに行っている。
私が結婚するとき母が夫に「障がいのある息子と私も一緒に嫁にもらうつもりで」と言ったことに深く傷つき、夫に泣いて謝ったこともあった。
結婚後は母と弟に毎月決まった額を援助している。
旅行や外食に連れても行く。本当は子どもの貯金もしたい。
それでも母は「あなたばかり幸せになって」と言う。
もうどこまでのサポートをするべきか、わからなくなってきている。
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回答:
引きこもりや発達障害のあるきょうだいが親子共に高齢化しつつあるのは深刻な問題。親にとっては自分の死後の子どものケアが不安。障害のある子どもをお世話してもらうために、次の子を産んだ、という親もいるし、きょうだいたちは、小さい頃から陰に陽に「次はあなたの責任よ」と誘導されているようだ。
親の不安や焦燥、怒りや不安をぶつける相手に娘が選ばれるのもよくあること。
AIにでもぶつけてもらう方がよいかも。
私には私の生活があるし、できることはやっている。愛情がないわけじゃないけれど、親と同じようにはできない......正直な本音だろう。
「あなたばかりが幸せになって」とは、とんでも発言。
私と息子は、こんなに不幸だから、お前も不幸になれ、とでも言うのだろうか。
あなた自身が幸福でなければ、援助などできないだろうに。
母が20年前に離婚し「生活費を入れない夫」週末に会い続けるのも不思議な関係。
父との関係は切れていないということ?
別れた夫が別の家庭を作っているかどうかは書いてないが、あなたたち二人は父親の相続権者。遺産はしっかり受け取ろう。
「親亡き後の障害者のケア」は大問題。一度、父親を含めて家族会議を開いてみては? その音頭取りをするのは、あなたのほかにいないだろう。
年金は、資産は、住宅は、そして成年後見人をつけるとしたら誰がなるのか、グループホームに入るならどこが適当か......など、答えを出さないといけない課題はたくさんある。洗いざらい、クールかつリアルに、検討してみよう。
お金がない、と言いながら旅行やネイルに行く?
ケアされる人をケアする人にも、ケアは必要。
そのぐらいのお楽しみ、認めてあげて。
その分、あなたにぶつける愚痴が減るかもしれないから。
親の死後、あなたが弟さんと同居する必要はない。
独居世帯になってもらって、生活保護を申請することもできる。
在宅で障害者総合支援法のサービスも使える。
昔と違って、日本はそれができる程度の「中福祉社会」にはなった。
堂々と権利を行使してください。
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◆カウンセラーの回答
この相談で一番深刻なのは、弟さんに障害があることそのものではありません。
母親との関係性が、すでに限界を超えていることです。
「障害があるから仕方ない」という言葉は、
ときに 家族の搾取を正当化する道具 になります。
そこは、はっきり切り分けて考えてください。
① 母親の「情緒的な依存」
お母さんは、
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深夜・早朝を問わず電話をしてくる
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泣く・怒鳴るなど感情をぶつける
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「私が死んだらどうするの」と不安を丸投げする
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「あなたばかり幸せになって」と罪悪感を植えつける
これは相談や頼りごとではなく、娘を「感情のゴミ箱」にしている状態。
さらに、
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「お金がない」と言いながら、ネイルや旅行には行く
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娘からの援助を当然視している
ここには、お金の境界線が完全に壊れています。
娘は、金のなる木ではありません。
子どもを持つあなたには、守るべき家庭があります。
② 「弟のため」を盾にした母のコントロール
弟さんの将来を心配すること自体は、自然なことです。
ただし、その不安を 24時間、娘に背負わせる必要はありません。
弟さんには、
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障害年金
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障害福祉サービス
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作業所・就労支援
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グループホーム
といった社会的な選択肢があります。
「家族が全部面倒を見る」時代は、もう終わっています。
にもかかわらずお母さんは、
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制度を使うより
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娘に頼ることを選び続けている
これは「母の不安」ではなく、
母自身が「変わらないための依存」です。
③ いちばん忘れてはいけない視点──あなたの子ども
あなたが本来、わが子のために使えるはずのお金・時間・エネルギーを
母と弟に使い続けていることを子どもが将来知ったとき、どう感じるでしょうか。
子どもはこう思います。
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「私は後回しだったんだ」
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「家族より祖母や叔父のほうが大事だったの?」
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「お金がないと言われていたのは本当?」
これは、子どもの心を傷つける構図です。
④ 「どこまでやるか」ではなく「どこで止めるか」
カウンセリングの視点では、この相談者さんに必要なのは、
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もっと頑張ること
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もっと優しくすること
ではありません。
必要なのは、
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支援の線引き
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金銭援助の上限設定
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電話の頻度・時間の制限
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「これ以上はできない」と言葉にすること
それは冷たい行為ではなく、三世代を守るための決断です。
あなたが倒れたら、
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母も
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弟も
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あなたの子どもも
誰も守れません。
この相談者さんは、もう十分すぎるほどやっています。
これ以上必要なのは「覚悟」ではなく、撤退ラインです。
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親の不安は、親の課題
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きょうだいの人生は、社会で支える課題
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あなたの人生と子どもの未来は、あなたが守るもの
それを選ぶことは、冷たさではありません。
健全な親離れであり、健全な家族再編成です。
そして、あなたは誰に遠慮することなく、幸せになっていいんです。
子どもは、「かわいそうなお母さん」より、「幸せなお母さん」のほうが、
きっとウレシイと思いますよ。
注)「障害者」「障がい者」表記について
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法律・制度・公的文書
→「障害者」が正式表記 -
報道・一般記事・配慮表現
→「障がい者」も使われる
現在は 両方使われています。