無邪気な凶器① | 渡邊津弓のイトオシイ毎日☆

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このお話はフィクションです。


山神トオコ 44歳 ~その③~



前回までのあらすじ

・映画のキャストオーディションを兼ねたワークショップに参加したトオコ。

 参加者も若い俳優たち、スタッフ陣も年下ばかり、肩身の狭い思いの中、雑草根性で迎えた2日目。





ワークショップ2日目は、1日目の会場より狭い、新宿近くの区民会館。

次のワークショップ候補の、新人監督達が見学にきていて

和室の会場には、正座のスペースすら充分にとれない状態で、参加者たちが居場所を確保していた。

今日の課題は、前日渡されたシナリオからの抜粋。

年齢や個性に関係なく、全員が同じシーンを演じる。

旅行に来ている妹と彼氏の部屋に

異常に過保護な妹の兄が現れ、ひと悶着あったあと、

兄妹がふたりっきりになった・・・という状況。

兄妹なのに恋愛感情でもあるかのような、少し、艶っぽいシーンだ。

この手の映画にありがちな、ヒロインが窓辺で煙草を吸っているところから始まる。

トオコは、気が重かった。

煙草をくゆらせて、アンニュイな雰囲気を自分が持っていないことをとっくの昔に理解しているし

兄役となるべき男性陣に、トオコと釣り合うような年齢の人がいない。

このシーンの前の設定の、旅館の仲居役なら、できるんじゃないかと思っていたが

監督の頭の中にある仲居は、30代前半くらいの、ちょっと訳ありの色っぽい女性で

結局、兄といい関係になりそうな匂いを持ったイメージで、トオコには演じさせても貰えなかった。

だからといって、19歳の妹役を演じさせるというのは・・・・

「年齢設定とか気にしなくていいです。」

と、言われて、30人近い役者や監督の前で演技をさせられた。

相手役の男性は、20代後半くらいだろうか。監督と顔見知りの林という名前の人だった。

1回演じた後、突然監督が

「林さん、やりにくくないですか? 山神さん、交代しましょう。」

と、別の女性を指名した。

トオコは固まった。

~つづく~