今回は、私が以前地元の新聞社に投稿して、掲載して頂いた文章を紹介します。

 内容は、少子化問題についてです。


 この頃盛んに議論されている少子化問題。私はその最大の要因は、母親だけに育児を任せる「ワンオペレーション育児」(以下「ワンオペ育児」)であると考えています。

 精神科医である岡田尊司さんの著書「愛着崩壊 子どもを愛せない大人たち」によれば、少子化のきっかけとなったのは、戦後の高度経済成長期だとされています。この時の工業化や核家族化が背景になって、仕事のために家庭から離れ子育てを母親だけに任せる父親が増えました。一方専業主婦となった母親は、子育ての責任を自分だけに負わされたことから精神的な余裕を奪われ、「ちゃんとしなさい」「何やってるの」等と子供を叱ることが多くなりました。そのことがきっかけとなって、日常的に安心感を脅かされるようになった子供は、親との間に愛着(心の中の愛の絆)を形成することを諦め、やがて他者一般との絆も弱くなる「回避型」愛着スタイルを持つ大人になりました。それと同時に、他者との新たな絆を築く営みである結婚や出産をも避けがちになり、その傾向は、その後世代間連鎖が繰り返される中で少しずつ強くなっていき、今に至っているそうです。

 しかし、現代のワンオペ育児も実は当時の専業主婦の生活形態とあまり変わりはありません。むしろ仕事と両立しなければならなくなった分、今の母親の方が置かれた環境は過酷です。つまり今のままであれば、今の子供達も将来、結婚や出産はもちろん、人付き合いそのものが今の若者よりも更に苦手になるかも知れないということは歴史から明らかなのですが、今の社会にその自覚は皆無です。そのことが理解されていなければ、仮に様々な財政支援によって一時的に出生数が増えたとしても、母親が置かれる過酷な育児環境が変わることはないため、また一定の割合で「回避型」の大人が現れることになり、元の木阿弥に終わるでしょう。逆に理解されていれば、たとえ給付金など無くても、父親は我が子の将来のために率先して家事を担ったり母親の精神的フォローにあたったりするはずです。

 因みに、乳幼児期に形成される愛着によって、人間関係能力、自立性、ストレス耐性、知能等が向上することから、その時期に親がきちんと愛情を注げば、子供は、周囲の人達と温かな人間関係を築きながら十分な学歴を獲得し、一人前の職に就き、愛する人と結婚し子供をもうけるでしょう。少子化対策とは、そういう健全な人格形成の延長線上にあるのです。