◯文中の括弧付き数字は、その内容についての引用・参考文献があることを示す。文献の詳細は以下を参照→


第3章≫二大愛着不全症状を改善するための父母両性の働きを表したそれぞれの支援方法

①母性の働き「安心7支援」の提案

・第2章で述べた親の愛情不足による「回避型」愛着不全に陥らないためには、子供の「安全基地」となって愛着を結ぶ存在が必要になる。ここではその働きを母性と捉え(64)(65)(66)、更にその具体的な支援の方法として、複数の専門家の指摘(67)(68)(69)(70)(71)(72)(73)(74)に共通した支援行為を選んで「安心7支援」として次のように定めた。「子供とスキンシップを図る」「子供と話す時にはきちんと見る」「子供に微笑む」「子供の話を最後まで否定せずに聞き共感する」「穏やかな口調で話しかける」「子供なりの良さや小さな伸びがあった時を逃さずそれを褒める」「以上の中でやると決めたものはいつも心がける」。

・これらの支援行為は、第4章で述べる健やかな人間関係の形成や心身の健康等を目指す交流分析学で言うところの「プラス・ストローク(心に栄養を与える働き)」でもあることから、「安心7支援」の設定意義は十分認められるものであると考える。

・これらの支援は、幼い頃に正しい養育を受けてきた人にとっては当たり前の行為であるが、その養育方法について念を押したり、それ以外の人達に広げたりするだけだからこそ、少子化問題も改善が期待できる。逆に新しく特別な方法では、それが多くの家庭に浸透することはあまり期待できない。

・テレビやスマホ等のメディア機器が普及したことによって、それに注意を奪われて子供とのコミュニケーションが疎かになったことも愛着不全の要因の一つと指摘されている(75)中にあっては、「安心7支援」の具体的な支援行為を意図的に実践することが重要だと考える。

・子供とスキンシップをとったり愛情を伝えあったりするこれらのような支援を行うことによって、親の中に「親性」(子供に愛情を注ごうという気持ち)が更に湧いてくることが期待される(76)。

・これら7つ全ての支援を行わないと効果が現れないというわけではなく、親御さんが「自分にもできそう」「これは効果がありそう」と思ったものを選んで実践するだけで、他の支援行為も無意識のうちに行われることが多く、十分な効果が期待できる。

・これらの支援で接していると親子間に愛着が形成されることから、子供はその大好きな親を困らせることをあまりしなくなる(77)ので、叱ることが格段に減ると考える。

・母性が果たす役割については、「『安心7支援』で子供の求めに応じその気持ちを受容すること(方法)によって子供に安心感を与えること(目的)」と捉える(65)(66)。

 

②父性の働き「見守り4支援」の提案

・第2章で述べた親の感情的・盲目的な愛情による「不安型」愛着不全に陥らないためには、特に子供と適度な距離をおいて見守る存在が必要になる。ここではその働きを父性と捉え(78)(79)、更にその具体的な支援の方法について、複数の専門家の指摘(80)(81)(82)(83)(84)を基に「見守り4支援」として次のように定めた。「(まず)子供に任せるかどうかを決める」「(その後)子供に任せると決めた活動中は子供を微笑みながら見守る」「(ただし)子供がSOSを求めてきた時、または指導が必要な時には迷わず穏やかに教える」「(最後に)子供が上手にできた時には子供を褒める」。

・これらの支援行為は時系列順になっているため、「安心7支援」のように特定の支援を選んでも良いというものではなく、出来るだけ全て行ってほしいものである。

・父性が果たす役割については、「『見守り4支援』で子供との間に適度な距離をおいて、試行錯誤する子供の様子を見守ったり必要に応じて指導したりすること(方法)によって社会的に自立できる力を養うこと(目的)」と捉える(78)(79)(85)(86)。

 

・愛着不全のそもそもの始まりは、戦後の高度経済成長期の核家族化の中で、親子間の距離を適度に保つはずの父親が仕事のために家庭から離れて、母親だけに子育てを押し付けた(現在でいう「ワンオペレーション育児」)結果、母親が安定した精神状態で子育てができなくなったことと考えられている(87)(88)。また1964年のオリンピック以降普及したテレビに目を奪われる親子(89)や、女性の社会進出に伴って保育所を利用する母親(90)が現れたことで、何れも「安心7支援」のような親子間の愛着形成行為が減少したために、特に「回避型」愛着不全に陥ったと指摘されている。もし今後もワンオペ育児が行われるようならば歴史は必ず繰り返されるだろう。

・父性が子供を社会的に自立させるうえでの遊び役(91)や躾役を担う(92)(93)のに対して、母性は子供が自立を果たす過程で不安感に襲われた際の「安全基地」としての役割を担う。つまり「子育ては母親の役目」という考えは大きな誤りである。

・特に3歳から6歳の「幼児後期」に子供に任せて好きな事に熱中させていると、目標達成能力、人間関係能力、感情コントロール能力等の「非認知能力」が身につき、大人になってから、学歴が高い、収入が高い、労働経験年数が長い、健康管理ができる等の人生の成功に繋がりやすいことが明らかにされている(94)。

・世の中には、「学歴やキャリアが不十分な親のせいで人生が思う通りにいかない」ということを表して「親ガチャに外れた」等と言うことがあるが、親の学歴やキャリアよりも、「幼児後期」に熱中体験に安心して取り組めるだけの「基本的信頼感」を0歳の時に、更に一つの物事に持続的に取り組むだけの「自律性」を3歳以前に、それぞれ身に付けるだけの世話をすることこそが、子供が「非認知能力」を獲得し人生の成功を収めることに繋がると考える(95)。


(つづく)