アメリカでは、時々、犯人以外の少なくとも4人が銃で死傷する「大量銃撃事件(mass shooting)」が起きています。その発生件数は、下記記事が掲載された2023年7月時には、データ収集を開始した2014年以降で最悪の年となった2021年に匹敵するか、それを超える勢いで増え続けていたと言われています(以下記事参照)。


 ところで、聖マリアンナ医科大学の堀内勁氏によれば、アメリカでは、赤ちゃんを自立させるために、子供が泣いても簡単に抱き上げたりしない強制自立育児を取り入れていて、そのことが凶悪犯罪の増加に繋がっているとのことでした(堀内著「サイレントベビーからの警告」より。「サイレントベビー」とは「どんなに泣いても親から助けてもらえなかったため、泣くのを諦めた赤ちゃん」という意味)。実は日本でも、戦後その育児法がアメリカから取り入れられ、その後、約三世代にわたって現在まで受け継がれているそうです。

 そこで、先進国の凶悪犯罪の発症率を調べてみたところ、下記画像(下記記事より) の通り、殺人事件はアメリカが飛び抜けて多いのですが、強盗事件に関しては、フランスが一番多かったのです(殺人事件も、フランスは2番目)。





 私は、その事を知って「もしかしたらアメリカと同じような育児をしているのでは?」と思って調べてみると、案の定、生後数週間経つ頃から、赤ちゃんを一人部屋で寝かせる習慣がありました。その理由は“自立心を養うため”と、“夫婦で過ごす時間を大切にするため”だそうです(下記記事参照)。


 その事を知って、私は首をかしげました。「あれ?フランスは『少子化対策の優等生』と言われていたのではなかった?こんな育児をしていたら、親や他者を信じられない『回避型』愛着スタイルの人間が育って、子供を産まなくなるのでは?」。

 そこで今度は、フランスが過去に「少子化対策の優等生」と言われるに至った経緯を調べてみました。

 フランスでは、1980年代、急速に出生率が下がり、1995年には過去最低にまで低下していました。その対策として行われたのが、出産や育児に対する税制上の優遇措置や、母親を育児の重圧から解放する支援(乳母や留学生に子供の世話をしてもらう、保育ママやベビーシッターを利用する等)でした(下記記事参照)。


それ以後、フランスの出生率は飛躍的に伸び始め、「少子化対策の優等生」と言われるようになりました。「そういう条件なら子供を産んでも良い」と女性から受け入れられ、飛躍的な出生率の向上に繋がったようです(下記画像参照)。当時母親達は、まだ安定型愛着スタイルを保っていたため、育児環境さえ整えば出産意欲を持つことができたと考えられます。


 ところが、実はその20年後の2015年頃には、出生率は急に下降を始めています。この現象を、「愛着崩壊、子どもを愛せない大人たち」(角川選書)「回避性愛着障害、絆が希薄な人たち」(光文社新書)等の著者である精神科医の岡田尊司氏の指摘(→少子化の主な原因は、子供が乳幼児だった頃の親の愛情が不足したために、子供が親を信頼できなくなり、その子が成長した時には、他者を信頼できない「回避型」愛着スタイルの大人になり、異性や子供との関わりも避けるケースが増えたこと、という指摘)に照らし合わせて考えると、母親が育児を乳母やベビーシッター等の他者に任せたことで、母子の関係が希薄になって愛情が不足し、そこで育てられた子供が「回避型」に育ち、20歳頃になって出産を回避したと解釈できます。

 実は日本でも、1995年以降「エンゼルプラン」として保育所利用が拡充されましたが、その20数年後に出生率が更に減少傾向に転じたことがありました。「国が子育てを助けます。お子さんを保育所で預かりますから、お母さん方はどんどん働いてください」という響きの良い言葉の下に、母子の距離が遠ざかってしまったのです。

 フランスでも、母親達に子供を産んで欲しいばかりに、彼女達にとって楽な条件を提示したことで、一時的には出生率が上がったのですが、子供の将来を考えると、それは好ましいものではありませんでした。

 その一方、デンマークでは、ある時までは女性の社会進出が進み、出生率が1.38まで落ち込んだのですが、その後フランスとは真逆に、出産・育児休暇を拡充して、親自らが子育てに当たるようにした結果、その25年後には出生率を1.9まで飛躍的に回復させています(下記記事参照)。


 以上を振り返ると、フランス、日本、デンマーク、いずれの場合でも、子供が産まれてから20〜25年後になると、出生率に良し悪し何れかの変化が見られています。改めて、乳幼児期の育て方が、その子供が出産適齢期になった時の出生に影響を与える事が分かります。


 なお、現在フランスでは、先のような出生率の低下の実態を受けて、有給の出産休暇の6カ月間の使用を両親ともに保障するとともに、できるだけ育児休職制度が利用されるよう、支援金の増額を打ち出しています(下記記事参照)。


どうやら、今度は親自らが育児に専念できる環境が整えられようとしているようです。

 しかし、これまでのように、子供がベビーベッドに1人で寝かせられるようなことがあっては、元の木阿弥でしょう。なぜなら乳児は、母親のお腹の中に居る頃は、母親が体力を消耗しないように日中休む代わりに夜に活動していて、産まれた後も、しばらくはその時の名残りで、夜中に目を覚ますと言われています。その時に、側に親がいなければ、極度の不安に陥るでしょう。時には、空腹でもなく、おむつが濡れたわけでもなく、純粋に親に対する安心感を求めて泣く(「ファジネス」)こともあるそうですから。

 乳児期は、他者を信頼する気持ちの基礎となる「基本的信頼感」を獲得する時期と言われます。その時期に十分な安心感を与えられず、その後も、劣悪な育児環境に置かれ続ければ、他者に対する攻撃性を持ち共感性の弱い「回避型」愛着スタイルの大人に育って、最悪の場合、凶悪犯罪に至っても不思議ではありません。