表紙︰キョンシー仮装・ユズキ
『えーっと、文化祭開始は、9時だっけか』
「ですね」
警察に通報後、私たちは学校の文化祭があるから事情聴取は省くと特別に見られた。
優しい警察。
普段ならないんだろうが…。
家で、服を選ぶ。
今日は私服でもいいらしいが。
『私の私服、ダサいんだよなあ』
着れれば別によくない?という女子力マイナスレベルの私の思考じゃファッションなんぞ知らん。
全てただの布切れじゃないの?
「わかってないですね、カナ…ユズキを見てください」
何故か私の家にカホが。
理由はしっかりわかっている。
不審者討伐の帰り道、
「私…男性恐怖症になったかもです」
『何されたの…。いや、別に思い出させたいとかじゃなくてね?』
「セックスです」
『?』
「セックs」
『わかった!わかったから!』
まあ要は半強制強姦でトラウマが植え付けられた、というところだ。
そりゃあ、操られている時に、ダメとか、そういう意識はないが、その時の記憶はしっかり残るわけだから最悪以外の何物でもない。
「どぉ?私!バイト代で、買ってみたんだよぉ」
ユズキが服装を見せる。
これは…
『cosplay?』
「いえす!」
キョンシーのコスプレをするユズキ。
楽しそうで何よりだ。
「じゃあ、行きましょ!」
『なんか…疲れた』
「またですよ!始まってすらないのに!」
昨日からドタバタすぎて辛い。
ただいま11時。
…11時?
『あれ?出し物のやつっていつだっけ?』
「えーっと、午前の部が、10時から12時までですね。カナたちが入るのは午後の部なので、安心してください」
『そうか…なら、安心。ていうか…』
「?」
率直な疑問を、彼女に投げかける。
『私のこと、“カナ”って言うように、なったんだね』
「うーん…特に深い意味はないですが」
「“さん”をつけると、遠い存在の人になっちゃう気がして」
「あなたには、いつでも、そばにいて、これからも一緒に歩んでほしいから」
『そう…ありがとね』
「ちゅっ」
カホが近づき、私の口に。
もはや日常に紛れる接吻。
いや、日本がシャイなだけで海外では…
いやそんなことはない。
少なくともここは日本。
『すみませんでした』
「…」
『いや、すぐ終わる…。とは、思わなかったです』
「警察から、連絡来てたよ。「ありがとうございます!そちらの生徒が、だいぶボコボコにしてくれたみたいで」って…」
『それはチヅルに言ってください、私は何も…』
「あ、怪我とかは?」
『だいじょうぶです』
はぁ…とため息をつき、
「他の先生には、ないしょだからね?」
『わかりました!』
そして私は職員室を出ようとすると、
「あの、どうせなら私といっしょに回らない?」
『え?別に、いいですけど』
珍しいな。先生から声かけてくるとは。
1年生の廊下を練り歩く。
職員室の外で待っていたカホと、
何故かついてきた先生と共に。
「もー店全部回ろ!はっはっはっ!」
「大丈夫ですかこの先生」
カホがなかなか真面目な声で私に聞く。
知るか。
『全く聞いてなかったけど、カホのクラスどういう店なの?』
「聞いて驚かないでください…」
『そんなすごいアイデアが…?』
「メイドカフェです」
『あっ』
あの事件の後だから彼女にとってはトラウマの塊だろう。
「さっき教室行ってたんですけど、女子が着てる服のせいで吐き気とか倦怠感がヤバいです」
「なんかあったの?メイド服が…」
『先生それ以上はあんまりよくないです』
「そ…そんなに?」
きょとんとする先生。
『私も、これから仕事あるんだよ』
「マジですか?何の出店…」
『購買部だよ、購買部!』
「そんなのもやるんですね…何売るんですか?」
『それはもう株』
「え」
2人は立ち止まる。
『え、なんか変?』
「あれですか?あの…漬物とかにする、カブじゃなくて?あの…投資する…やつですか?」
『そそ』
「すごい営業の方向転換ですね…ただの株投資じゃないですか…」
『あ、ちゃんといつもの商品もあるよ?新商品で、株をいつもよりお得に売買するだけであって』
「なんか…気になってきたよ、先生は」
『永崎先生も、来ます?』
「いいの?ちょっと興味あるから、行こうかな?」
〚音色先輩!お疲れ様です!ごめんなさいワンオペにしちゃって!〛
いつものように、筆談で会話を取る。
先輩の汗ばむ顔を見ると、
だいぶ繁盛していたようだ。
《大丈夫!なんかみんなのクラスの店、まわってきた?》
〚職員室ですね〛
え?と驚く顔をする先輩。
先輩は理由を聞きたげだったが、
タイミング悪く客が来る。
〚じゃ!やりましょ!〛
うん!と笑顔で頷く。
だんだん、先輩の思っていることがわかるようになってきた私。
来た客は…
『あ、カホ…んで、先生』
「がんばれー。先生は、応援しに来た」
「私は…株について…聞こうじゃないですか」
『ほほう…?』
『まあ、簡単なシステムなんだけど』
私は、説明用のボードを出す。
『この店で100円の買い物をすると、100円ごとに1ナメクジ入るの、ポイントが』
「なんですか!?初めて聞きましたその単位!」
『そのナメクジは、日によって単価が違うんだよね』
「ほほう」
『単価が1円の日もあれば、100円の日もあり。それはバラバラ』
「つまり、円とナメクジが株の役割を果たしている…ということですね?」
『あと、今日始まった、200円でできる福引では一等が3000ナメクジなんだよ』
「面白いですね…購買部。随分しっかりと商売やってるじゃないですか。“ナメクジ”は納得いきませんけど…」
『福引は、一回200円。やる?』
私は、福引の箱をレジ台に出す。
「やってやりましょう!」
硬貨を差し出すカホ。
「ちなみに、1等以外に景品は?」
『えーと、7等まであって…7等がシャー芯(5本)、6等が消しゴム1個、5等がおにぎり引き換え券、4等がジュース引き換え券、3等が1ミミズ、2等が10ミミズ』
「待って」
『?』
「ミミズって何?」
『ミミズは、100ナメクジだよ!』
「ややこしいです!なんで統一しないんですか!てかどっちも軟体動物…」
『じゃあ一回ね、はいどーぞ』
カホは箱の穴に手を入れる。
少し触ったのち、「これです!」と声を上げた。
『これは…』
【7等】
「ハズレ枠じゃないですか!」
『はい、シャー芯』
「こうなったら…これでどうですか!」
彼女は財布から1000円札2枚をレジに出す。
『お?10連…?』
「やってやりますよ!」
彼女は、再び箱に手を入れた。
【7等】
【6等】
【6等】
【7等】
【4等】
【7等】
【7等】
【5等】
【4等】
【7等】
「すげぇ微妙じゃないですか…」
『いーじゃん、ジュース引き換え券2つもらえるよ?あと、その他諸々』
「何円賭けたと思ってるんですかぁ!?絶対仕組んでますよね!?」
『やらねぇわ!』
みなさん、
こういう客が営業界では『カモ』と呼ばれます。
『そう言うと思って…これ!』
「スタンプカード?」
『そそ!10連貯めるごとに、一回3等以上確定の箱が引けるんだよ』
「やるしかない…」
ざわ…ざわざわ…
中川、くじを引く!
もしここで当てるなら、お釣りが返ってくる!
勝てば官軍、負けるなら…?
中川の運命は果たして!?
ざわ…ざわ…ざわざわ…
『どうだ?』
「とりゃあ!」
【2等】
「 (・o・) 」
『カホー!思考を放棄しないで!』
少し接客をしたあと、
アナウンスが入った。
[このあと、午後の部に入ります!出し物などがある生徒は、体育館に集まってください!]
『いよいよか…』
「がんばってくださいね、カナ!最前列取っとくんで」
『それはそれで恥ずかしい…』
〚私、出し物あるので、行ってきますね!〛
《いってらっしゃい!私も、見るね》
先輩には、歌声は、わからないかもしれない。
でも、想いだけでも。
私が楽しんでるところだけでも、見て喜んでくれたら…
ないか。さ、行こ!
控え室(特設で、元は物理室)にニズとハクキが待っていた。
私が入ってきてすぐに、
ハクキがこちらに向かってくる。
「あのさ…カナ」
『どしたのハクキ?そんな深刻そうな顔して』
「いや…僕らさ、頑張って曲作ったじゃん」
『そだね!多分盛り上がる…よね?』
「それはわからないんだけど…」
『何?緊張してるの?』
「校歌の方って…作ってないよね?」
『あ』