表紙︰今田カナ(コーディネートプロデュースbyカホ)




帰宅して、机の上で白紙を見る。




あの出来事が今も私の頭の中をグルグルと、


回り続けている。








ご主人様と、暮らしているだけです。












カホの家庭事情にそんなに突っ込んだことはないが、そういう家庭なのかもしれない…。




『いぃやなわけねぇだろ!?』



「何じゃあ急に!」




読書を嗜んでいたスタシア。



急に声を出す私にビビって本を落とす。




『はぁ』




カホ、歌詞。



校歌、ご主人様。





カホ。





『?』






ピンポーン、とインターホンが鳴る。





今日は母も遅いはずなので、



誰だろうか?宅急便とかかな。














『はーい』








私は玄関のドアを開けた。










『やほ』




そこにいたのは…




「やほ。…だーれだ?」


『それ目隠さないと意味ないよね…』




ハツカ。




楽しそうで何よりだ。






「これ」




『?』




新聞を手渡される。






「行方不明︰15歳女子高校生」




「特徴︰ショートヘアー、後頭部に大きいリボン」




『!』




カホが、行方不明?




「その…行方不明の前日、一緒に帰ってたじゃん?カナ。カホとさ。何か、なかった?」




『…』




『私…忘れ物して、カホを、公園で待たせてたんだけど…公園に戻ったら…いなくて』




「…そのときだね」




『…で今日、カホを見た』




「ほんと!?何してた!?」






私は、今日起きたカホとの掛け合いを、


全てハツカに話した。










初めて見た。




ハツカの、悔しいような、やるせないような。




なんとも名状しがたい表情。






「じゃあ…私は、もう遅いから。ここで」



『待って』



「…何?どしたの?」




『絶対、カホを連れ戻すから!』




ハツカから、ふふふ、と笑顔が戻る。




「わかった!私も手伝う」




じゃあね、と挨拶を交わし、




夜は終わった。





カナの家を後にした帰り道。




『カホ…メイド服…』




見てみたい自分もいる。




『まぁ、早く帰ってヨガでもしよ』




最近のマイブームである。




『あ』






ゴミ捨て場に、噂のカホが!






『カホー!たしかにこれは大…たん』








私は感じた。






これは、カホであって、カホじゃない








途端、後ろから腕を掴まれる。




『だっ、誰!?ッッ!』




カホに口を塞がれる。















「ちょうどよかった、もう一人、メイドが欲しかったんだ」




謎の男が、ニチャア、と口を開いて笑う。



『!』






私は、後悔していた。




今日も、カホはいない。




そして、ハツカがいない。




一昨日、さよならを交わしたのだが。




昨日は、調子悪かったのかな、と思ったが。




カホと同じく、音信不通。





ふたりとも、


助けられたかもしれないのに。
















私は、げげたんと屋上で弁当を食べる。




『…』




「警察…動き出したらしいね」




『うん』




二人が、無事なことを祈るばかりだが。








『ただいまー』



仕事とは辛い。




「「おかえりなさいませ、ご主人様」」




二人の“メイド”が、僕を出迎える。




「「なにか、私たちにできることはございませんか」」




『んー…』




前まではふたりとも、青春を歩んでいた。


















これを踏みにじり、自分のモノにする。







最ッッッッ高だぁ!!!







『じゃあ…今田カナ、だっけか?』




















『あの子も…キミらの、仲間に入れてあげなさい』




「「承知しました、ご主人様」」







テストが、終わった。



嬉しい…のだが。




「テストどうでした!?私?聞いて驚かないでくださいね…?…多分留年です」



「あ、私?…うーん、まあまあ、かな。ごめんね面白い回答できなくて」





二人がいたなら、こんな会話があるんだろうか。





警察からは、未だに連絡が来ない。



証拠を、みたいな感じで、聞き取り調査に来たが。



もうあれから1週間が経つ。




無事でありますように…。




帰り道、一人で自転車を走らせる。



なぜかカイが具現化して二人乗りしてくる。



「最近…カナ、嫌い」


『?』


「なんか…ぐちゃぐちゃしてる。心が」





『当たり前だよ、大切な友達を、二人も』


「でも、カナのせいではないでしょ?」





『そう…だけど』





自分が悪い・悪くないより、

自分が助けれた・助けられなかったで判断する私。



「カナはさ」



『うん』





「二人のこと、好き?」




信号に、足止めされる。

















『当たり前じゃん…!』



なぜだろうか。



涙が止まらない。



辛いね、と背中を優しく撫でるカイ。








そうだよ。



辛かったんだよ。




自分の感情を、塞ぎ込まない。



自分がやりたいように、やる。








『二人を、奪還する』








家で、自分の想いを歌詞に表現する。







『誰かに響く曲』



『誰か一人に届く曲』



『聴いてて楽しい』











音楽とか、未経験だからこそ、こだわりたくなる。















できた!








早速、ハクキに連絡する。



『できたぞぉぉぉ!』



〘ちょっと、フルで歌って〙



『えぇ!?』



ものすごい無茶振りだ。



『わかった…歌ってみる』





『素晴らしい この世界は


あなたのためにあるのでしょう


そんな バカみたいなことを


今は 少し 信じて』





「四拍子のCコード、二番で変調…かな?わかった、作曲する。どの音がいいかとか、ギターどこで入れるかとか、詳しく聞きたいから、家来てくれない?」








『わかった!』



軽く請けたけど…



今から行くの?異性の家。



そう思うと心臓がバクバクする。





「大丈夫、ハクキ君はカナに欲情するようなやつじゃないから」



『うるせーシャンクス』



「もうそれやめて!?」





とりあえず、文化祭前夜祭は明日。


急がねば!


私は家の玄関のドアを開いt「カナ」



『?』




ただならぬカイの表情。



スタシアも実体化して、出てくる。


「玄関に、誰かいる」



『!』



「千里眼で、見てみるのじゃ」



スタシアは、玄関をじーっと見つめる。



「あるじの、友達じゃないか?」



『え?ほんとに?』











「二人とも、メイド服着てるがの」



『わかった』


私は、体力に自信がない。


追いかけっこなら、たぶんあの二人には負ける。


でも、今は。


負けれない。




『いらっしゃい!』


玄関を素早く開ける。


同時、向かってくる二人をスタシアが衝撃波のようなものを当てて吹き飛ばす。


「今じゃ!…安心しろ!痛みは無いようにできておる!」



私は走った。



ここだけ見ると、走れメロスみたいだ。



そう考えるくらいは、余裕がある。




大切な、友達のために。




笑って過ごせる、未来のために。





『いってててて…』


なんだっけ。


何この部屋。


私は確か…


学校から、帰る途中で。


『うわあ』


気づいたら、服が変。


メイド服だし…胸元の防備ゼロ。


そしてミニスカ。


てか上下、下着脱がされてるわこれ。


気持ち悪い。



「起きたみたいだねぇ」


『おじさん…誰?』


一人の小太り中年男性。


「生徒手帳、見させてもらったよ…寒空…下々って言うんだよね?」


『あ…』


わかった。


この人は、噂の、不審者。


『なんで、連れてきたんですか?』


「それはもちろん、キミを僕の“専属メイド”にするためさ」



私は少し考えた。


一旦、なってるふりをしよう。


証拠やらなんやらを探って、


警察に行く。


まさしくスパイ。


そうといくなら…


『わかりました♡ご主人様♡』


この姿は墓場へ持っていこう。


「早いねえ…。じゃ、僕は出かけてくるから、みんなと仲良くするんだよ」


『承知しました!ご主人様!』



男は部屋から出ていき、




その後、


微かに玄関の開閉音のようなものが聞こえた。



『よしよし…なんか探らねば』


「こんにちは」


誰かから挨拶をされる。


振り返ると、カホがいた。


『あっ!え…あ!』


「どうなさいました」


『その…最初だから、なにをすればいいのか、わからなくて』


とっさの言い訳にしては、できたほうなのではないか


「簡単です」






「ご主人様が、お腹が空いた言えば食事を作り、お風呂に入りたいといえば全身を洗ってあげる、仕事が嫌だといえば代わりにやる、セックスがしたいといえばご奉仕する」


『…』






何が、メイドだ。


ただの、奴隷じゃないか。





なぜ?


なぜカホは、こうなった?






「嫌ですか?それなら、早く帰ったほうがいいです」



カホが、まさかの事をいう。



もし、彼女にまだ意識があるのなら。



彼女の良心から生まれた言葉なのでは?



『…嫌だよ』


「そうですか」











「ご主人様!」



『!?』







「やっぱり、効いてなかったみたいだね」



部屋のドアを開けて、出かけたはずの男がやってくる。


『なんで…なんで』


「外に出るふりなんて、小学生でもできるじゃないか」


「やだあ…いやだ」



なりたくない。



“死にたく”ない。



なんで…




こんな…やつなんかに。



こんな…。






なぜ奴隷なんかに。












光栄じゃないか。


これ以上ない幸せ。



ご主人様に、この身を捧げなければ。



「あーいいね、染まってきた」


『?』


彼の言葉一つ一つが、


私の心を強く揺さぶる。


従わなければ。


ご主人様。


ご主人様ご主人様ご主人様。






「次は、今田カナ、だよ?」



『「承知しました、ご主人様」』








『ふー、歌ったよ!』


「よし、作曲、できた」


ハクキは、ヘッドホンを外し、サムズアップする。






「いよいよ、明日だね」



『うん』






ハクキは、窓の外を見る私を見て、


「もしやるなら、死なないで」




『わかってるって!安心して!』



心配する彼をあとに、私は玄関で靴を履く。






『私…一人でやる』



玄関を開く。




『…カホ』



変わらない、メイド服。



瞬間、彼女は私の懐に入る。


腹に一撃、顔に一撃。


痛い


『ガボッ…ゲホッ、ゲホッ』


倒れて、えずく。


痛い


追い打ちのように、倒れている私を何度も何度も蹴る。



痛い



私は生まれたての子鹿のように、


ガタガタ震えながら立つ。


痛い。



視界がふらふらする。


全身が痛い。



呼吸が荒い。



そして、攻撃を受け、


倒れる。


何度何度も死体蹴りされる。


痛い



だけど。


立つ。


攻撃を受ける。


倒れる。


死体蹴り…



「なんで」



『なんで…結果は見えてるのに、って?』












『友達だから、傷つけたくないんだよ』


「私に、そんなの…いない」






「いるのは…ご主人様だけ」


『私には、いるの』






棒立ちする彼女を、


最後の力を振り絞って、


押し倒し、抱きしめた。


「や…やめろ」


彼女は、抵抗する。





「なんで…」


『だって…』








『だいすき、だからかな?』






「カホが男の子だったら、好きになってたかもしれないな」



お前は、誰だ。


カホ…は誰だ?


カホ?


「カホ」


やめろ、話しかけるな。



私には、ご主人様がいる。



それ以外は。いらない。


私は。






私は、誰?




誰?



ご主人様に…








私は、なんなんだ?



ご主人様…は、誰だ?






私は、













私は。



私は、中川、カホ。



私は!



中川カホ!






「…カナ」



『!』


「カナぁ…」


『そう…私は、今田カナ』


「中川、カホ」


『そう…あなたが、中川カホ』


彼女の目から、溢れる涙。


私は、より強く、彼女を抱きしめた。




「ごめん…カナ」


『うん』


「だいすき。カナ」


『私も、だいすき』





お互いの、愛を、確かめ合う。






今、二人は、世界で一番幸せだ。