魔法が使える、と聞くと。




とても便利に感じるのでは?と思う。





…私は、そうは、思わない。








魔法は、人を、狂わせる。 










デート遠足から一週間経ったある日の夜。




私は部屋で漫画を読んでいた。




同じ部屋にいる、ユズキはというと…




「はやくぅ…///はやく…いれてぇ///」


「ねぇ、この女優嫌いなんだけどぉ」


『おい私のスマホで見るなユズキ』




即座に彼女が持っているマイスマートフォンを取り上げる。やるにしても音を消せ。


…てか私ので見るな。


…てかてかなんで私のパスワード知ってるの!?



「ちぇっ」



『…え?どうやって見たの?』



「それはもう検索してさぁ」




終わってる。検索履歴残るやつやん。




「カナはそーいう動画見ないのぉ?…あ、漫画派?」


『殺すぞ』




リアルなシチュだとあんまり…


いやそういう話じゃなくて。




『はい、正座』


「はい…」


『最近ユズキ大丈夫?なんか淫乱すぎん?』


「言おうかぁ、迷ってるんだけどさぁ」


『何?結婚に焦ってるとか?』




「違うわい!…発情期?って言うのかな、それがあるみたいで」




『ふぅん…』












かれこれ長い間(と言ってもだいぶ短いが)一緒にこいつもいるからわかる。












こいつ…嘘ついてるな?








「いや嘘ついてないからぁ!やめて!?そういう疑いの眼差し!私を信じてよぉ!」



『はぁ』








「…?」








『まぁ、一回ヤッたなら、変わらないか』





だいぶ危ない考えだと、我ながら笑う。





「…ふふふ、今夜は寝かさないよ?」




『明日学校だから早くシてね、はよ寝たい』



「冷たくない?」




この淫獣が。






『どこだっけ…?図書室』






今日は図書室が空いているらしく、カホから「図書委員にもなったので私の働きっぷりを見てください!」と自信満々に。…とのことなので、放課後に立ち寄る。



委員会って、兼部みたいなことできるんだ…




階段を上り、廊下に出た、その時。




「あぁ!」




『え?何?』






私を指差すや否や、「あぁ!」と声を出す。


私の勘が叫んでいる。これは…変人だ!






「ま、魔物ぉ!誰かわからないけど、キミ!いま解放するからね!?」




『え?』




「まっ、魔物?私のこと?」




カイはもしや魔物って、自分なのでは?と私に問いかけるが、私も知ったこっちゃない。




「その通りだ!さぁ今すぐその人間を解放しろ!じゃないと…実力行使だ」




途端、謎すぎる彼女の腕の先に謎のゲートが生まれる。




ゲートに腕を突っ込み、何かを引っ張る。




腕と一緒に出てきたのは、杖。




「ははは!ひとたまりもない一撃、喰らわせてやる!」




『いやこいつ、魔物じゃなくて!』




「…クソ、なんてむごいことを!ヒトを催眠術にかけて操るなんて!」




「最期に言いたいことはあるかぁ!」と大声を上げこちらに何やらデカめの魔法を一発放つ様子。




え?これ私もダメージ負わない?






「いや私、幽霊…」 




彼女の足元にあった魔法陣が消える。




「え?」








「そっか…幽霊…なのかぁ」




「カナさん…この人、誰ですか」




『えーと、私もわからん』




図書室の机でがっかりする謎の女。






『なんか…カイのこと、魔物と思ってたららしくて、成敗してやるわ!みたいな』




「あ…。厨二病…ってやつですか?」




カホの言葉で「むむ」と口を開き泣きそうな顔で彼女は反論する。




「うるさい!厨二病なんかマセガキがなるようなやつと一緒にするな!私の力は本当なんだぞぉ!」


彼女の逆鱗に触れたらしい。


『わかった!わかったから!図書室だから静かにして!』




彼女はうあああああああ!と声を上げ、図書室を出てどこかへ消える。




「行っちゃいましたね…名前も聞けませんでした」




『なんか心配だから後追っていい?』




「え!?私の仕事っぷりは!?」




『また見るから!行ってくる!』




「あ!ちょっと!」




ごめん。あいつを放っておくことが私にはできない。











「行っちゃいました…」



「ふふふ、それでこそ、カナですね」









『…私ってさ。この力。最初はワクワクしたし、漫画やアニメに出てくる魔法使いとか、ヒーローみたいになれるかな、って、思ってたのに』




いざ蓋を開けてみれば、そんな世界を脅かす生物なんて存在しない。




『ねぇ、マガ』




「なー」




私にこの力をくれた小さな精霊、マガ。


頭には葉っぱが生えている。




「あ、いた」




『ぬ』




「いや、落ち込むなら屋上とかそこら辺行ってくれない?」




『だって…立入禁止だから』




「それはそうだけど校長室で落ち込まないでほしいんだけど!いろんなところ探し回ったんだからね!?」


『男子トイレじゃないならまだマシじゃん』


「そうだけどそうじゃない」



壁には歴代校長の顔写真がずらりと並ぶ。




「ん…あれ?誰、このちっちゃいの?」




『視えるんだ…。まぁ、幽霊みたいなもんか?このちっこいのは、マガって言うの。…それと、何の用?…図書室を騒がせたこと?君の大事な幽霊を魔物呼ばわりしたこと?』






「私は、今田カナ。…あ、いや…名前が聞きたくて」




『なんで?』




「なんでって…友達になりたい…から?名前なんて知って損はないと思うけどなぁ?」






馬鹿らしい。






友達なんて、ただの自慢材料でしかないのに。






ないのに。








彼女からは。






「いいでしょ?魔物見つけたら、連絡するから!私じゃどうしようもないもんね…。え!?いるってことは、もう私どこかですれ違ってたってこと!?」




『いや、それはないと思う…』



「よ、よかったー…」






彼女からは。






純粋な「仲良くなりたい」という気持ちしか、


読み取ることができない。








こんなに善い人間と、友達になんてなれる私は。




幸せ以外の何物でもない。






ガチャ、とドアが開く音がする。



この顔は…



「こ、校長先生!すみません!」


カナは、校長を見るやすぐ頭を下げる。


「は…え?」


驚いた表情を見せる校長。…なんか、おかしい。



独特な匂いだ。


神経を逆撫でするような、


舐り回すような。


『!』




「いや、あの、その…色々あって!失礼しました!…誰だっけ?名前聞いてないや!」



「まぁ、いいってことよ」



最悪だ。



『カナ!逃げて!』 



「え?」



『窓から!はやく!』



「どうしたんだい?逃げちゃあ、悪く見えるじゃあないか」




『お前…“誰”だ』




杖を校長に似た“ナニカ”に向ける。




“ナニカ”は口を開く。








「…勘の良いガキは嫌いだよ」






校長先生の体が礼儀正しさを醸し出す洋服をビリビリと破り、大きく、毛深く、




獣のような、見た目になっていく。




「〈グルオオオオオ!〉」




鋭い咆哮。鼓膜に突き刺さる。




魔物だ。








地面が…揺れている?


床に亀裂が入っていく。








…校舎が、崩れる!?






「ぬー!ぬー!」




『マガ!カナを!』






早く出なければ死死死死死死死死死死死死死…















『どこだ…』




校舎が校長室を中心に壊滅的被害。




カナは?カナは無事?




「な!なー!」




マガが訴える。




『…いた』




瓦礫を乱雑にかき分け、その姿を見せる。
















魔物を助ける方法は、ない。






魔物は、人からの変異種であり、本来滅多にあるわけではない。…あるわけがない。




魔族の血筋の人間が、なるのだが…。


よくある、突然変異のようなもの。




魔族の血筋はこの世界にありふれている。


俗に言う、血液型A型。



大抵の人間は、風邪や筋肉痛、頭痛などで収まり、それ以降は症状が二度と出なくなる。




もしだ。




天文学的確率で、



症状を抑える遺伝子がなかったら?





「〈グルオオオオオオ!〉」




あいつみたいに、なるのだろう。



変わったものは、戻せない。










魔物を“人にして”助ける方法は、ない。








もう、人じゃないから。




知っている。




マガに何度も教えられた。




『でも…』




姿形が変わっている。人としての意識はない。






『殺せるわけ…ない』





元は、人なんだ。



彼は何も悪くない。






私はダメだ。






魔法使いなんて、向いてない。






「なー!のー!」




『ごめん、マガ…ごめん…私には、無理だ。…?』




私の方を誰かがポンポン、と叩く。




「ちょいとお体拝借していい?」




『さっきの…幽霊。どういう事?』






「こういうこと!」






『!』














「…俗に言う、憑依ってやつ?」





















『「ははは、こりゃあすごいや!」』




両腕もある。歩ける。




視界が霞んでいない。




「〈グオオオオオ!〉」




『「さあ、ケリをつけようじゃないか」』








特大の、デカいのを一発!






狙いを定める。






『「はぁぁぁぁぁ!」』








当たった!






魔法弾、着弾。数コンマ秒後、大爆発。










「〈オオオオオオオ!〉」








野獣の、断末魔が響き渡る。









『は!ここは?』



「お、やっと起きましたね!」


目を開くと、「きゃーはー」とカホが泣きながら抱きついてくる。



『とらあえず、無事なのかな、これは』



「無事ではない…かな?」


『あ…誰?だっけ?』


「私は黒髪奈那(クロカミナナ)!ナナって呼んで!」


私に抱きつきながら、カホは現状を話す。



「一応、校舎の崩壊は「理科部のデーモン・コア実験ミス」と処理されたらしいです」


『えそれ理科部めっちゃ風評被害じゃね?』



あんな危ない物取り扱ってんのかってネットで批判されるやつじゃん。


「まぁ、そこら辺はだいじょぶ!公認で、警察と魔法使いは、繋がってるから。警察がそういう風に処理したんだと思う」


「多分理科部は廃部ですね」


『カホ…』


「大丈夫ですよ、女子バスケ部行くので」


『あれ?カホバスケやったことあるの?』


「なに言ってるんですか、舐めないでください。安定したサポートでチームに貢献してやりますよ!」




もしかして、小さい頃やってたのかな?




『おぉ!すごい自信』



「…マネージャーとして」



『駄目じゃねぇか』




「とりあえず、突貫工事作業のため今週は学校休みだってさ。オンラインでやるらしいよ」


「めんどいですね」


「クラスまたいでいいらしいよ」


「最高ですか?」





『疲れた…もうちょい、寝るわ』


「私も寝ます!ちょっとスペース空けてください!」


「じゃあ、私も…」


『えええ…!』






こんなにも非日常の連続。



自殺しようとしたり、



幽霊に憑かれたり、



個性豊かな友達がいて、



魔法使いがいて、



魔物に殺されかけて。




この毎日を。



愛せない理由があるだろうか?






「私、夢だったんだ」



『何が?』



「私の事、受け入れてくれる、友達」







「魔法でも作れない、大切な友達」