『…』


「…w」


『私って…やっぱり死んだほうが良かったのでは?』


昼ご飯の時間、みんなは友達と机をくっつけてワイワイガヤガヤやっている中、私だけ。ぽつんと一人。

もちろん、1時間目から4時間目まで、誰とも喋らなかった。それにしても最悪な昼食だ。便所飯でもしようか迷ったが母が時間を割いて作ったものをトイレでなんて断固として食べることができない。育ちはいいですからね、私。


「じゃ目立つようなことすればみんな見てくれるんじゃない?ほら、自分から話しかけてみるとかさ」


『そんな事できたらカイと会ってないから』


「まぁそうか…あ!イチゴ!いただき!」


『あ!ちょ!』


大きな声が教室に響き、クラスメイト全員がこちらを向く。失敗した。たまらなく恥ずかしい。そしてカイには3つあったイチゴをパクパク全て食べられ、「とろける甘さ〜」みたいな顔をして両手をほっぺたに当てて喜ぶ。


『え…あ…スミマセン』


「「……」」


怖い。恥ずかしい。怖い。恥ずかしい。視線が怖い。私に聞こえない声で喋る口が怖い。何を考えている?陰口されてる?関わりたくないと思われてる?…あんなのこのクラスにいたっけ?って思われてる?


『う…ああ…』


嫌だ。嫌われたくない。


「カナ?…カナ?」


みんなが…見てる。全員が…嫌ってる?


『カナ!?カナ!!?』


嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ






「カナ!?」


『え!?は!?』


気が付くとベッドの上にいた。目の前にはカイがいる。あたりを見渡してみるとここは保健室の安静室らしく、ドアの向こう側ににAEDや保健の先生の机などが置かれている。


「えーと、急にぶっ倒れたからいま保健室にいる」


『…そっか』


「良かったー!死んだかと!」と言いながら抱きついてきて、自分の頬で私の顔に擦り寄せるカイ。とてもひんやりする。目元が少し潤んでいて、それくらい心配してくれていたのか、と思う。なぜだか少し嬉しい。


「あ、起きたんですね」


そう言って入って来たのは知らない人だ。大きな特徴は後頭部にあるバカデカリボンくらいだろうか。


『あっ、はい』


「紹介遅れました。えーと、あなたが1組だから、隣の1年2組保健委員の中川カホです。気軽にカホって呼んでくださいね」


委員会がいつの間にか決まっていたことに1番驚く私。勝手になにか美化委員とか決められてるならいくら私といえど溜まったもんじゃないと思う。とはいえ会話がいらないのでそっちの選択肢のほうが嬉しい自分もいるのだが…。


「んー現場見た人から聞いた感じドスって急に泡吹いて倒れたらしいですね」


『え…はずかし』


「まあ少しして歩けるようなら自分で帰っていただいて。無理そうなら私が保健の先生に言うので、無理しないでくださいね」


『あっはい』


「…なんですか?」


『え…いや、なんでそんなでっかいリボンしてるのかなーって』


どっかのゲゲゲな太郎と共に行動する猫の娘の妖怪がしてそうだが、なにか理由があるのだろうか。


「…あなたには関係ありません。私がどんなファッションしてたって関係ないでしょう?…それともセンスがないとでも言いたいんですか?」


『えっいや、そんなつもりじゃなくて…』


「…そうですか。ちょっと保健の先生呼んできますね」


なにかいけないことでも聞いてしまったのだろうか。少し嫌な顔をして出ていってしまった。


「…なんか裏がありそうだね」


『まぁ、掘り下げるつもりはないけどね』


「そう…私は気になる。だからさー聞いてきてよー」


こいつは倫理観とかその他諸々人間に備わってなきゃいけないものがあるのだろうか。…幽霊だから?幽霊だからなくなってるってこと?


「やめてください!」


『「?」』


保健室の外から、さっき聞いた声が一つ。


『…行かなきゃ』


「…ふふ、そだね」


私は考えず外に出た。なにか心に深い傷を負わせた罪償いでもなんでもない。…もしかしたら、邪魔かもしれない。


「このリボン、何だよこれ!これで女装とか何してんのお前w」


「女装じゃないです!返してください!」


なにやらカホが高身長ヤンキーに絡まれている。カホでは身長が短くリボンに手が届かないらしく、その様子をヤンキーは笑って見ている。


「どーする?ってダメダメダメダメ!!!」


カイが私を止める声は聞こえた。やっちゃった後に。


「あ゙ぅ゙っ゙っ゙」


右手拳は顔面に。グキッと骨に響く音が聞こえた。


『あえ?』


どこぞのスパイなファミリーのピーナッツ好きの女の子みたいなことをしてしまった。どうしよう。どうしようどうしようどうしよう。


『あの…立てますか…?』


恐る恐る聞く。ヤンキーは震えながら立ち、


「…覚えてろ」


そう吐き捨ててそそくさと逃げていった。


「あなた…すごいですね」


『いや、その…いつもはこんな感じじゃないというか』


「あ、リボンリボン」


ヤンキーが落としていったリボンを拾い上げ、身につけようとしている。別になくても可愛いのに。


『なくても可愛いのに』


「…!」


思わず口に出てしまった。


「はぁ。どうせ隠したところでなので言ってしまいますね。私って見た目が少しボーイッシュなんで幼馴染からずーっとオトコオンナって言われてたんですよ。それがイヤでイヤで。何で?私も一人の女の子なのに。何でそんな事言われくちゃいけないの?…このリボンは、私が女の子…私が私であるためのものなんです」


最後は笑ってこちらを向いてくれたが、私に、どうにも自然な笑いには見えなかったし、どこか無理をしている。そう思った。


『カホが男の子だったら、好きになってたかもしれないな』


「!!」


何言ってんだろ、私。バカみたい。でもそれが、ただ一つの私の本音だった。

…なんて怒られるのかな、そう思って返事を待った。


「…わたしが男の子だったら、今ので少し惚れてたかもしれないですね」


『!!』


「…ふふ」


『…ははは』


こうやって、誰かと笑えるのが青春なのかな?




「今日は出番なしかー、わたし。…あのイチゴ、とちおとめだな?」