死人に口なし






  


今まで、母と暮らしてきた家が





異常な世界に様変わりした
思い出したくもない生家








クチナシの木を、先に切られたことで

後から、あの人達が
謝ってきても すがってきても

何食わぬ顔で、家族ヅラしてきても


「もう許さなくていいのよ」

あっちが、最初にしかけた事なんだから


裏で、糸引かれてるとも知らない
馬鹿な人達なんだから




「正直者が、馬鹿をみる」

家臣忠誠を試す者が、

鹿を、これが馬だと言う

正直に「これは馬です」
と、言った人が、処刑されたのが、
馬鹿の由縁
 




我が娘   私の娘

馬鹿ではない

だけど、情を愛だと履き違えて

正直に、金のありかを言えば馬鹿を見る




母が死ぬ直前

さっきまで、意識がなかったのに

急に、目を開いて

父親に、うっとりした目で

「 クチナシの木を見たら私を思い出して」

父親に言うのを、あの女も見ていた




母、一世一代の猿芝居








母が死んで


花が枯れ落ちた木から
花の匂いがする訳ないのに
クチナシの匂いだけが、漂ってくる

クチナシの甘い匂いだけが、
燻り続け立ち込める

「 気持ち悪い」

あの女の独断で、無残に切り落とした





切ると思った

小梅ちゃんが、許せなくしたの

これぐらいしとかなきゃ
小梅ちゃん 優しいから情に負ける

やっぱり 家族だからだなんて思って

クチナシにする男に全て吸い取られる

家族なんかじゃない


他人が、人の家の木を切る

していい事と、悪いことの分別がない人

ただの赤の他人以下


例え、身内であっても赤の他人

そんな相手に、情け容赦かける必要はない





母 全て計算ずく


母が死んだ生家 異常な世界だった




思い出したくないけど 

忘れられない

忘れたいけど

思いだすだけで
気が狂う




異常な世界で凡に生きるのがとても難しい

この歌の如く

だから、あの家から逃げたの 
あの異常な世界から逃げたの



だって私は母の娘

わ た し は ま と も

何も言わなかった



息子が よく似てるのよね
反抗しない代わりに、何も言わない




近所の人

「  本当にドラマみたいな事があるんだ」
「 ドラマより面白いよね」

高見の見物して覗き見してる
  
私の近所付き合い苦手
これも、トラウマ




その異常さ

壁があっても覗き見しなくても
気配で感じること


一つ屋根の下にいて
母親の時にはなくて あの女にはあること


寝ていると、声が聞こえる
見なくても覗かなくても何をしているかが分かる

声をかき消す音も聞こえる

SEXしている音が聞こえる声が獣物


身の毛がよ立つ





人間がしている所業じゃない









夫婦円満なる秘訣

「うちの親は仲良し」
 
「  息子と嫁に IKEAで妻と手を繋いでるの
たまたま偶然エスカレーター越しに見られてさ」

真に出世する男は家庭円満






家庭円満?

この二人

これは母が亡くなった後からの話ではない
ここ最近始まった話ではない


すぐに直感で分かった

  母親の時にはなくてあの女とはある
あの女とは身体が合う
そこが、離れられないんだ


母は病気になる前から全てを分かっていたんだ


だけど、何も言わなかったんだ
なぜなら? 父親を愛していたか
もう諦めていたか どちらか


だけど、母が病気になった

こんな時まで、あの女と会ってる


一気に憎しみが、渦巻く


なぜ? 母が分かったのか?
あの女の香水の匂い
香水の匂いを連れて父は帰ってくる





だからお母さんは香水はつけない

お店の女の子も香水は一切禁止
人の衣服まで匂いを移さない
水商売としてのあるべきカタチのルール遵守




その匂いが、薄くなる事がない
更に強く濃くなる
あの女の匂いを 私の家に連れてくる

匂いを匂いで、打ち消す


あれは、不思議なのよね
母が死んでからよ
クチナシの木 切ったはずなのに
匂いだけが、燻り続けていた



命の期限が間近に、刺し迫る中で
母の愛してるが、愛してたを通り越し
怒りが沸点を超え一気に許さないに変わった

「愛してるの」なんて感傷に痛む場合も暇も時間もない


死ぬと、分かったら
人生最高に生きるエネルギーが高まった
アドレナリンがフル全開

その瞬間から、
あんなにあった痛みが嘘みたいに
引いたそうだ




まず、一番に何をしないといけないか?

お金

私が死んだお金で あの二人がのうのうと
あぐらをかいて暮らす事だけは許さない

絶対に 許さない
何があっても 許さない

入院はしない

死ぬなら自宅でその姿を見せつけて死ぬ
私の死の匂いを残して死ぬ

ここは私の家だから

母は固く心に決めた事は無言で実行する人

何も言わない

この気質
私 うちの息子共に引き継いでいる



すでに末期を超えた末期
治療が出来る状態なら娘の為にする

もう無理 間に合わない

可愛い一人娘の為に
家 屋敷 土地
上っ面は、後から困るように
今は、あの二人にくれてやるから

そうではないもの
それをしたら死んでも死に切れる
後悔なく死に切れる

どうせ死ぬなら 死に切らないといけない 

懸命で冷静 そしてちゃめっ気たっぷり
商売人の娘だった母らしい考え





この話 誰から聞いたか?

母の顧問弁護士

完全守秘義務
人の口に戸が立つ
その人にだけは、涙を流しながら事の内訳を説明し

弁護士たる人
お金を払う人に100%つくのが 弁護士

史上最強の弁護士軍団


すぐにではない
徐々に真綿で首を絞めるように追い詰める
 
死んでからする、弔い合戦に挑み
この世を去ったんだ




だから 戒名まで自分で決めた
「この文字を入れてください」と
あんな人達に、安い戒名をつけられたくない


全ての算段と事が終わった


それと同時に、病魔蝕んだ
身体の衰弱が一気に進む時まで
私も母の体調の変化に気がつかなかった


元々が、食べるけど身体の線が細い人だったから
私も食べても太らない
これも、母の遺伝




だから、足音なのよ


父が、あの女のところに行って留守の間に、

「 今が、チャンスよ」

笑いながら 息切らしながら
足をひきずりながら

ところどころ家の中なのに、
立ち止まり また足を引きずる足音

あの音 忘れてなかった



現金 印鑑 通帳
諸々の連絡先がある
隠し場所を教えながら今後の話をしてくれたの


その時の足音なのよ

あなたの娘が、「 おばしゃん 足音が聞こえる」

その足音を口真似するのよ


「  お母さん? あの時の足音」


布団の中で、あなたの娘
抱きしめながら、泣いたわ

「 おばしゃん だいじょうぶ?」


泣いてる私を
トントンしてくれるのよ


「 ににには、おばちゃん
    泣いてるの内緒にしてね」




あなたの娘が 玄関を開けてペタペタ歩く音
これも、忘れられないけどね

あの子が、母の足音を感じるの
半分 寝ぼけている時だけなのよ
抱きしめてると、また眠る
自分の涙が、温かく感じる


あの子といると、私も癒される
あの子が、生まれつき持つ母性

よかったわ
息子の隣に、今もあの子がいて

うちに、来る客見てて思うのよ
出世する男の特徴


妻に、母親は求めてはいない
だけど、母性を求める
母性が高い妻を持つ男は、帰巣本能が高い

帰巣本能が高い男ほど、何が高いか?
精巣で、精子を作る力が高まる

イコール 優秀な子が生まれる

男の帰巣本能を高める
これは、一人じゃ成り立たない
母性本能を持つ女性あっての事

あの子 
子どもの頃から、母性本能が強い

必死に、あの子の元に帰ろうとする

よかったわ
息子の奥さんが、あの子で
母性本能が強い

母性本能を強くするもの?

優しさに隠された強さ
これを持つ女性に男は、真に安心をするのよ


優しさに、隠れた強さ
表側からは、見えないし感じない
表側からは、強さを感じさせない


だから、男が本能で守ろうとする


私達とは、ここが違うのよ

ふふふ

私達 見た目に強さが出すぎちゃってるからね