「控えめが吉」
である。
ナニをいう!
俺というゴトーちゃんは、
「控えめ半生」を送ってきたのである。
「控えめ名人」である。
ボーン・トゥ・控えめ、である。
俺の口癖は
「お控えなすって」である。
こう、中腰の姿勢になって、
誰彼かまわず、
「お控えなすって」と、
控えることを第三者にも強要してきた俺である。
スーパーなどで、
泣き喚く、
赤ちゃんに
俺が
「お控えなすって」というと、
ぴたりと泣き止むほどの
「お控えぶり」である。
あれは、いつだったか。
俺が金太郎ともに、
足柄山に山菜採りに行ったときのことである。
俺は、新宿からロマンスカーに乗って、
箱根湯本の改札で、
金太郎と待ち合わせた。
金太郎は張り切って、
「マツタケでもとろうよ!ゴトーちゃん」
などという。
「マツタケとか言うな!金太郎!
ここは、控えめに、平茸ぐらいにしとけよ!」
と俺。
「まったく、ゴトーちゃんは控えめなんだからー」
とかなんとか、二人で楽しく、
足柄山に登って行ったのである。
ところが、突然、熊に遭遇。
金太郎は、得意の力もちで、
熊にまたがろうとした。
しかし、またがることができるのは、
金太郎の飼い熊だけで、
見ず知らずの熊は、
金太郎の向こう見ずな暴力に、
ますます激怒した。
そこで、俺が登場。
こう、なんちゅーか、
中腰の姿勢になり、
手を差し出し、
「お控えなすって、お控えなすって」
と、熊に啖呵をきったら、
熊は、俺たちにどんぐりをやまほどくれた。
しかし、控えめな俺は、
半分いただき、
半分を熊に返した。
俺の控えめな態度に満足した熊は、
山に帰っていったのである。
それ以来、金太郎は暴力での解決はやめたらしい。
俺と金太郎は、
楽しくもスリリングな山菜採りを終え、
湯本駅前の
「カッパ天国」で、
一日の疲れを洗い流した。
と、そこへ、ヤクザの集団が入ってきた。
酒が入ったヤクザたちは、
もう、大暴れで、
「そこのおかっぱの坊主、
背中流してくれ」
と、金太郎に背中を流させたりした。
俺も金太郎も
「控えめ」にするしかなかったのであった。
そんな、俺と金太郎の「控えめ」の思い出である。