「自分の楽しみは後回し」

である。


「自分の楽しみは皿回し」

で、なくてよかった。

俺の特技は皿回しである。

それだと、「見事的中」ということになってしまい、

「運勢」としてはダメである。

「運勢」というものは、

すべからく、

ズバリ感が欠落しているほうが、

五臓六腑に染み渡るものである。


さて、俺というゴトーちゃんは、

つくづく、

「自分の楽しみを前倒し」

にしてきた半生であったなと思う。


浅草サンバカーニバルに出演していた、

ブラジルのネーさんにも、

「ゴトーちゃん、楽しみ前倒し、

しすぎだよ」

と、腰を振りながら注意されたこともある。


ラテンな人に、

そんなことを言われる俺は、

相当なるエピキュリアンであり、

まあ、大抵の大人には呆れられ、

罵られ、捨てられ、

「遊びだったのね ! 奥さんと別れて、

相模大野のマンションを借りようって言ったのに」

と、泣きながら、懇願するも、

「やかましい ! この前倒し女 !」

なんつって蹴飛ばされ続けてきた。


ここは、ひとつ、本日だけ、

心を入れ替えよーと思う。


己の楽しみを後回しにした俺は、

他人の楽しみを次々と前倒ししていく。


さしあたり、駅前のパチンコ屋へ行こう。

俺はパチンコをしない男だが、

パチンコをしている人は、

とてもパチンコを楽しんでいると、

容易に想像がつく。


なので、俺は、

パチンコをしている人の玉を、

狙いも定めず、

ガンガン発射してあげる。

いずれ、訪れるであろー、

フィーバーの前倒しである。

そー言えば、

本日はサタデーナイトフィーバーであった。


俺はいいことをしたと、自画自賛する。

なので、今度はスロットをやっている人のとこに行き、

じゃんじゃん、コインをぶち込んで、

ぐるぐるぐるぐる、スロットを回してあげるつもりだ。

いずれ、その人に訪れるであろー、

楽しみの前倒しをしてあげているだけだ。


俺は、人が喜ぶ姿が嬉しいタイプの、

ロハスおっさんである。


隣家におじゃましよーと思う。

隣家のご主人はサラリーマンだ。

サラリーマンの休日。

それは、真昼間から、

サッカー観戦しつつの晩酌である。

俺は、ご主人が観ているサッカーの

ゴールシーンを主体とした見所を、

前倒しで教えてあげる。

サッカーファンは、

ゴールシーンがとても楽しみだ、と聞いている。

なので、おせーてあげる。

「あ、この次、この選手シュートしますよ、ご主人」

楽しみの前倒しである。

それにあわせてビールを飲むのが、

何より楽しみだとも聞いておる。

なので、俺は、下戸だけど、

「後回し中」なので、

ご主人がビールをコップに注ぐそばから、

替りに飲んであげる。

やむを得ないことだろーと、思う。

俺は、人の楽しみを前倒しする男である。


ご主人から、おん出されるだろー。

俺は憤慨する。

せっかく、俺が後回しにして、

前倒しにしてやったのに、

なんだよ !クソオヤジ !

と、罵倒する。


俺の「前倒し」は失敗だったな、

と、寂しい気持ちになり帰宅。


そして、皿回しに興じる俺なのであった。

ロンリー皿回しな俺なのであった。