「出世願望が強くなる」
である。
俺は、本日まで、
「出世したい、出世したい」
と、強く思って生きてきた。
それが、本日MAXに達するのである。
しかし、どーやったら出世できるのであろーか?
その謎を解き明かすひことができないままに、
「願望」のみが肥大するのである。
無理からぬことである。
俺は、船場のちりめん問屋の丁稚になって、
まだ2日目である。
今は、近江支社で雑巾がけを主体とした、
奉公にいそしんでいる。
昨夜は鮒寿司というものを初めて食べた。
近江支社の支社長に、
「鮒寿司酒場」へ連れて行ってもらったのである。
存外に美味しく、
フランスのリバロという
ウォッシュタイプのチーズに味が似ていた。
支社長に、そんな話をしたら、
「なかなか、ハイカラなもん食っとるんやな」
と、少し厭味を言われた。
ただ、支社長は、基本的にいい人のよーである。
「定吉、出世ゆーもんはな、そんな簡単なもんやないで」
俺に向かって、出世術をおせーてくれるのかと思いきや、
「それは、また今度にしとこーや。もう帰るで」
と、言っておせーてもらえなかった。
さすがに、奉公2日目の丁稚には、
まだ、おせーられないということなのか?
まあ、いずれおせーてもらえるだろー。
俺は、悔しいので、
日経新聞を買った。
日本の企業の社長さんの年収が載っていた。
「ゴーンがトップか・・・」
俺は、琵琶湖の水面にたゆたう月を見ながら、
嘆息した。
翌日、俺は、早くも暇をもらうことにした。
支社長は、
「なんぼなんでも、早すぎるがな。
夕方には戻ってくるんやで」
と、言って、俺に時間をくれた。
俺の目的はただ一つ、
ゴーンへのインタビューである。
出世に関するインタビューである。
「出世願望」がMAXに達している俺は、
日産本社の前で、
報道陣とともに、ゴーンを待ち受ける。
と、そこにゴーンがでてきた。
富士そばで、冷やしたぬきそばを食うらしい。
と、日経新聞の記者の人がおせーてくれた。
俺は、ゴーンの後を追い、
富士そばに入った。
しかし、丁稚の俺は、
持ち合わせがなく、
「かけそば」しか頼めなかった。
すると、なんということでしょう。
ゴーンが俺に近付いてくるではありませんか。
そしてゴーンは言った。
「ゴトーちゃん、出世するということは、
いつでも富士そばの冷やしたぬきを
食べられるということですよ」
俺は、食いかけの「かけそば」を見ながら、
「出世したるでーーーーーー!!!!」
と、絶叫した。
そしたら、隣のおじさんに
「喧しい!」と叱られた。