全米オープンを、

発狂しながら、

観戦していたら、

俺のIP電話が鳴った。


誰だ、このヤロー!

テメエ、石川がパッティングしているというのに!


出ると、

「タケダ コウジさんですか?」

誰?

タケダ コウジって。

俺は、ゴトーアキオである。

「世界に一つだけの花」である。

俺の半生、

一回たりとも、

タケダ コウジになどなったことがない。


電話の相手のアクセントは、

明らかに中国人であった。


俺はピンときた。

タケダ コウジという人は、

メンマ工場の社長である、と。


間違いない。

そして、電話の主は、

現地工場の、

工場長である。

メンマの生産ラインの責任者である。


やつは、

勤勉さを買われ、

タケダ社長に現地採用された。

村では一番の出世頭である。

名前は「竹麺上」。

「チクメンジョウ」である。

中国語読みは知らない。

しかし、まさにメンマを作るために

生まれてきたよーな、

名前である。

ボーン・トゥ・メイク・メンマである。


さて、一方、

タケダ社長は焦っていた。

ものすごいお得意様である

「二郎系」から、

取引を切られたのである。


すべては、岡田ジャパンのせいであった。


昨晩、

感動と興奮とがっかりと、

「上を向いて歩こう」のため、

二郎系は、大繁盛であった。

そして、メンマを使い果たした。

すぐに、タケダ社長に電話をした。

「メンマ持って来い!」

しかし、タケダ社長は、

渋谷のスポーツバーにいた。


メンマの納入は、果たせなかった。

今朝、一番に取引停止の連絡が入ったのである。


チクメンジョウは、

生産ラインの確認をするために、

連絡してきた。


しかし、タケダ社長は、

思い詰め、

IP電話も解約し、

樹海へと車を走らせ中である。

中田のユニフォームを着たまま。

後ろのシートには、

首吊り用のロープと、

幼子からもらった、

父の日の似顔絵が置いてある。


「ああ、俺がサッカーなんぞにうつつを抜かしていたばかりに・・・」


しかし、海老名あたりを過ぎた頃、

スピード違反で捕まってしまった。


警官にロープを発見され、

失敗。


そんなタケダ コウジの人生。


タケダは「竹田」ではなく、

「武田」であった。

メンマ作りには、もともと向いていなかったのである。