会社勤めをしているころ、

後輩たちと銀座で飯食った。

バブルだったねぇ。

ガキ風情が銀座で飯食うなんてね。


で、楽しくなった俺は、

「銀座の母」

という人に手相をみてもらうことにした。

手相を見てもらうのは、

大学四年以来のことである。


何故、手相などみてもらいたくなったか ?

別に悩みなどなかった。

ただ

銀座の母という人のテーブルに

「本日サービス期間中、通常3000円のところ、

なんと2000円で手相をみます !」

と手書きの張り紙がしてあったからである。


母は、夜の帳の中、

俺の手を見るなり

「これは只者ではない」

と、言った。

俺は「ああ、枡かけのことね」

と内心思った。


そして母は、

「将来、とんでもない大物になるわよ !」

と、少々興奮気味に言った。

俺は

「やっぱり、ローリング・ストーンズの正式メンバーにでもなるのかな」

と、ちょっと期待して、尋ねた。

「大物って、どんな感じ ?????」

すると母は言った。

「社長とか・・・そんな感じ」


俺は泣きたくなった。

2000円返してほしくなった。

いくら大サービス中とはいえ、

あんまりだと思った。

「社長」って。

当時は印紙代とか事務手数料だけで、

有限会社を立ち上げることが出来た。

費用は全部あわせても30万円ぐらい。


なので、30万あれば、

誰でも「社長」になることが出来たのである。


悲しかった。

社長になると言われたことよりも、

「銀座の母」のイメージの中で、

「大物イコール社長」

しか思い浮かばなかったことが悲しかった。


新宿などの繁華街にいけば、

誰でも呼び込みの兄さん、姉さんに

「社長 !」と呼ばれる。


俺はその程度の男だったのかと、

20代の希望に満ち溢れた俺は、

とてもがっかりしたのである。