20年ぐらい前、
高松へ出張をした。
せっかくだからと思い、
空時間に左甚五郎記念館なるところへ
足を運ぶことにした。
あの日光東照宮、眠り猫の、
三猿の、
左甚五郎である。
幻の名工だ。
さぞや立派な記念館かと思いきや、
地図をたよりに訪ねると、
驚くべきことに、住宅街の中にある民家であった。
表札には、
「七代目左甚五郎」 とかなんとか書いてあった。
ほんとかな、と思いつつ、引き戸を開けた。
二畳ほどの土間が広がっていて、だーれもいない。
「ごめんください」 と、言ってみた。
30秒ぐらいたって、
奥の茶の間の障子戸がガラガラと開き、
「はぁーい」
と、おじいさんが出てきた。
「こちら、左甚五郎記念館ですよね」
と、聞くと、
「はい、そうですよ、大人一人300円」
と、おじいさんは言った。
もしや、七代目? と思ったが、
聞くのが恐くて聞けなかった。
俺は300円を払い、2階の展示室に上がった。
てっきり、おじいさんが着いて来るのかと思いきや、
勝手に観ろ、と言わんばかりに、
300円を手に握りしめ、茶の間へ引っ込んでいった。
2階の展示室は、
ただガラス張りの棚に鍵もかけずに
甚五郎の作品がゴロゴロと並んでいるだけだった。
それぞれの作品は、ものすごい迫力があった。
そこはあたかも甚五郎のアトリエのようで、
まさにいま、甚五郎が何かを彫っているような、
木屑が飛んでくるような、臨場感があった。
来てよかった、と思った。
しかし、である。
これ、ひょっとしたら、ひとつぐらい持って帰っても
わかりゃしねぇんじゃねぇか、と思った。
監視カメラがついているのかと思ったが、
そんなものはどこにもなかった。
敷居はどこにもなかった。
優れた作品を人に観せる、
ということはこういうことだ。
日本では、仏像を後生大事にガラスケースの中に入れるが、
ガラスケースの中に入れられた仏像には、
魂がない。
ところで、俺はわがままである。
特に、大好きな亀に関しては、
異常なほどに貪欲だ。
これまでも、いろいろな職人にわがままを言って、
「亀のもの」 を作ってもらっている。
江戸風鈴の親方には、
レパートリーにない 「亀風鈴」 を描いてもらい、
琉球紅型のお師匠さんには、
亀の図柄だけで染め抜いてもらったりした。
俺は、業の深い人間である。
業の深い人間には、アポーツ(物品引寄せ術のこと)
の能力があるようで、
どんどん手元に亀が集まってくる。
昨年の俺の誕生日に、
妻の幼馴染みで
俺の未活動バンド、Beef or Chicken の
唯一のバンドメンバーであるKから
バースデーケーキをいただいた。
なんと、ギターの上に亀が乗っている、という
あめいじんぐなケーキであった。
これを作ったのは、
Kの先輩の鷲田さんという素敵な奥様である。
バタークリームでデコレーションされ、
とても口当たりがよく、おいしい。
工房はご家族でやっていらっしゃる。
Sweet Studio
お菓子教室と注文菓子
〒155-0032東京都世田谷区代沢2-33-2
Tel&Fax 03-3419-1130
Email alohasweetstudio@gmail.com
そして、本日、妻の誕生日。
Kが妻のために、またここんちのケーキをプレゼントしてくれた。
なんと、「THIS IS IT」 !
妻は開けた途端に、腰を抜かした。
食べるのがもったいない、と言いつつ、
食べないとケーキとしてのアイデンティティーが喪失するので、
大事に切り分け、
「Speechless」 を聴きながら、
涙ぐんで食べた。
Sweet Studio にお邪魔したことがある。
左甚五郎記念館のようだった。
職人は、難しいテーマに果敢に挑戦する。
だけれども、決して美術館には飾らない。
手に取ってもらうこと、使われること、食べてもらうこと、
そのためだけに手を動かす。
とても素晴らしい誕生日になった。



