「フゥーフゥー」
9月13日、午前0時。ニューヨークはマンハッタンのど真ん中。
僕と妻は、34丁目を東に歩きながら、踊り、大声で歌っていた。気がつくと後ろから、前から左右から「フゥーフゥー」というほとんど絶叫に近い声が聞こえてきた。
いたるところで馬鹿者が続出していた。「フゥーフゥー」とは、ローリング・ストーンズの『悪魔を 憐れむ歌』のコーラス・パートである。
我々は最前まで、34丁目と8番街の角にあるマディソン・スクエア・ガーデン(ニューヨーカー風に言うと「ザ・ガーデン」)で、ローリング・ストーンズの『ア・ビガー・バン・ツアー』の公演を観ていたのだ。放心状態。魂を抜かれたとはこのことだ、と思った。
魂を抜かれつつも、30年ぐらい前、中学生の時、部活をサボって急いで家に帰り、NHKの『ヤング・ミュージック・ショー』で、『ラブ・ユー・ライブ・ツアー』のマディソン・スクエア・ガーデンでのショーを観て、ストーンズの虜になってしまったことを思い出した。
ついでに、ちょうどその頃流行したマディソン・スクエア・バッグのことも思い出したりした。
そして「ミック・ジャガーもキース・リチャーズもこんなに働いているのに、俺ときたらば、なんとしたことだろう」と、少し滅入った。おそらく2万人ぐらいいたであろう観客の中で、そんなことを思ったのは僕だけだろう。
なんとすれば、僕はストーンズによって鬱病にせしめられ、そのリハビリを、ストーンズにお願いすべくNYくんだりまで来たのだ。その成果があったのかなかったのか…。
とにもかくにも、僕と妻とその他の馬鹿者たちの「フゥーフゥー」は止まらなかった。(続く)