体格のいいカリビアンのタクシードライバーは、

後部座席の俺を振り向き、

ひどい訛りの英語で、

「東京から来たのか?」と尋ねた。

「そうだよ」

「俺は東京に行ったことがあるんだ。名古屋、大阪も行ったよ」

「観光で?」

「いや、ライブで?」

「え! 運転手さん、何もん?」

「俺はレゲエバンドのベーシストなんだよ。生まれはハイチだけどね」

「マジ?? そーなんすっか?」

「そそ、ボブ・マーレーの倅なんか、赤ん坊のときから知っているよ」

「マジっすか!」

俺は降りぎわ、

「貴方のサインが欲しい」

と、鞄に入れていた小さい色紙とボールペンを出した。

すると、色紙の片隅に小さい文字で何かを書き込んでくれた。

なんて書いたのか、全く読めなかった。


9.11の5か月前のNYでの話だ。

そして、これが俺のハイチの思い出である。


ハイチの名前が全世界で知られるようになったのは、

たぶん映画「ゾンビ」によってだと思う。

ヴゥードゥーの聖なる儀式を、

ハリウッド的視点で、オカルトとして扱った失敬な映画だった。


かつて欧米列強が奴隷にしていたアフロたちに、

またしても理不尽な厄災が降りかかる。

アフロたちは、ヴゥードウーからキリスト教に改宗させられた。

それでも、白人の目を盗んで自分たちの信仰を守った。

マカンダルはハイチ・アフロの英雄だ。


キリストは助けてくれなかった。

当たり前だ。

キリストはただの歴史上の人物だからな。


自国或いは他の国の災害だったら、

直ちに立ち上がるドラエもん基金もまだ何の呼びかけもない。


国が一つなくなったのだ!

帰る場所のないアフロたちが、

白人と戦い、軍事政権と戦いながら

暮らしていた国がなくなったのだ!


坂本龍馬は復活しないよ。

坂本もただの歴史上の人物だからな。


放漫経営の果てに瀕死の状態になっている航空会社を救う金で、

ハイチ・アフロを十分救えるはずだ。


Get Up! Stand Up!