3話に引き続き、技能検定フライス盤作業について綴ろう。

私は人生の約半分を金型作りに費やしてきた。
入社当時は、陽気なおっさんどもに囲まれ、小さな視野でコツコツと業務に勤しんでいた。総重量約1トンにもなる金型を組立てていく仕事である。
当然ながら一品一様の物作りのため、使い物にならなくなった部品や、狙った通りに出来上がらない事は日常茶飯事である。

そして、金属は生き物であり、金型は馬鹿が付くほど正直である。
良ければ良いなりに、悪ければ悪いなりにモノが出来上がってしまう。

金型とは、同じ形のモノを大量に作り出す鉄のプラモデルの様なものであり、祭りの出店の鯛焼きの様なものである。

そんな金型作りにおいては、
人が設計し、人が加工し、人が組立て、人が使う。その為、思い込みや、計算間違い、はたまた鉄自身の変態によって、予期せぬトラブルに見舞われる。
その都度、人が考え、人が対処する。
鉄ゆえに人力での対処には限りがあり、やはり何をするにしても機械力に頼らざるを得ない。
人生の大半を金型作りに費やす私にとっても、トラブルは漏れなく遭遇するのである。

QDC。
Q=クオリティ=品質
D=デリバリー=納期
C=コスト=価格
製造業では当たり前に聞くフレーズである。

当たり前の話だか、早く、安く、高品位な物作りが要求される世界である。
トラブルが発生したからと言って、やすやすと納期を変更する事は許されないのである。

そんなトラブル対処に活躍するのは、マシニングセンターと呼ばれる工作機械である。

マシニングセンターは、NCと呼ばれる数値制御システムで制御され、予めインプットされた情報に従い、形状、深さ、穴径等を加工してくれるマシーンである。

金属同士の干渉や、位置ズレ、加工漏れなどのトラブル対応を早期にリカバリーしてくれる工作機械だ。

そんな夢のような機械にも強みでもあり、弱みでもある、ある特徴がある。
それは、インプットしないと動かない。というごく当たり前の弱みがある。

インプットするのは、この道具を使って、ここに、この大きさで、このスピードで削る。というプログラムを、先ずは作成しないといけない。
その後、機械にインプットするわけだが、
先に述べたように、一刻を争う状況ではこのプログラム作成がヤキモキするのである。

当然ながら、金型の組立てしかやったことがない私には、プログラムを作成するスキルは…………ない。

出来ることと言えば、安い頭を下げながら、早く対処して欲しいと懇願するだけである。


協力してくれる仲間も居れば、マイペースな人も居る。他人の都合に振り回されるのは良い気がしないのは十分理解できる。


さて、どうするべきか。


口を開けて待つだけなのか?

何とか自分で対処出来るようにするにはどうすべきか?


やるか、やらないか。ただ、それだけ。


ただ。

やるにしてもプログラム作成を覚え、マシニングセンターを扱う。

一芸10年と言われる業種で一気に2つの新しいタスクを覚えつつ、本業を遂行するには無理がある。

また、そんな都合良く反復練習する余裕はない。


たが、先人達の知恵と工夫はすごい。

私が目を付けたのはフライス盤だった。


新入社員研修の一貫で少し触れただけの機械だった。

要は、人がする事をプログラムに落とし込み、マシニングセンターで実行させていた事を、単に元に戻すだけの発想である。

大それた話ではない。


そう気付いた私は、そこからなるべくフライス盤を使うことを意識した。

柔らかい鉄、硬い鉄。

色々と削ってみた。

失敗しながら鉄を削る。


削る時は音が鳴り、削られた鉄は熱を帯びる。教えてくれたのは、おっさんだ。


それから3年ほどフライス盤を使いつつ、組立て作業を行った。


そして、国家技能検定フライス盤作業1級の挑戦だった。


制限時間内に2つの部品を削り、組み合わせる。そんな検定である。



長くなったので次回に続く。

ではまた書くよ。