前回、会社に入ってすぐにサトイモとタマネギとアブラナ科野菜の品種改良を手掛けましてサトイモの話をしましたが、次にタマネギの話です。
タマネギは、比較的品種改良が難しくて、2年に一度しか採種ができないので、当時種苗会社でもタマネギのF1育種をやっているのはタキイ種苗と七宝くらいで、他の種苗会社はF1品種はできなくて、固定種だけでした。
*F1育種…2種類の系統を交雑して、その交雑1代目を品種にする品種育成法。他の種苗会社がコピー品種を作りにくい。
*固定種…1つの品種あるいは複数の品種を交雑した子孫を性質が同じになるように固定した品種。比較的容易にできるが、コピー品種を作りやすい。
実は、神奈川県では湘南レッドという生食用タマネギ種を育成したんですが、この種は非常に生食に向いていて色あいが紫赤色できれい、辛味も少なく柔らかい種だけど、収穫時期が6月と遅いのが欠点でした。
タマネギは水田が終わってから冬の間作付けできるので、土地利用上効率が良い野菜ですが、収穫時期が次の水田作に間に合わないなら意味がありません。
そこで、ボクの上司が湘南レッドより早く収穫できる個体と系統を選んで、水田の作付けに間に合う新品種の育成を目指したのです。
元親の湘南レッドは、固定種で品種にはならなかったのですが、その理由の1つが均一性が悪く、言い換えれば変異の幅が広いのに上司が目を付けて、早生の湘南レッドを作ろうという計画でした。
タマネギの収穫時期は、地上の茎葉が倒れる頃で、見た目分かりやすいのですが、案外単純じゃないのが肥料の効きが遅かったりすると、茎の根本が太くなり、葉が茂りやすく、タマネギの球は逆に膨らみにくくなります。
それで、ちゃんと標準的な栽培をしないと選抜が難しいということを身にしみて感じましたね
それで、上司が昇進して部長になり、ボクに託されたんだけど、参ったのは新系統は確かに葉茎の倒れ方が早いけど、タマネギ球の肥大は元親とさしたる差が無くて、実用上大丈夫か?ということでした
だからと言って、これ以上選抜を強くすると、近交弱勢と言って小さく弱々しい系統になってしまいます😅
(この辺の匙加減が非常に難しい)。
仕方なく、上司にはナイショで、一部選抜をやり直して、球肥大が早い個体を母集団から取って、選抜系統と混ぜて弱勢にならないように作り直しました。
いまから7年くらい前に、上司は鬼籍に入って、墓石に自分が作った赤タマネギ「早生湘南レッド」を刻んでいます。大事にしていた仕事なんだと思いました😀
実際には「早生湘南レッド」はあまり水田裏作には使われなかったけど、まぁ結果的には完成度が高い品種にできたので、育成後30年近く使われてるから、けしてボクがやったことは悪くないよね←言うと怒るから、コッソリやったけど😅
サトイモとタマネギの品種改良で学んだのは、昔ながらの育種法「純系淘汰法」は、親の良い性質(食味とか、食感など)を大きく変えずに新しい品種ができることなんだけど、逆に言えば親と大して変わらないものしかできないということでした😀
タマネギの話はまだまだ続きがあるんだけど、とりあえず今回はここまで。
うさぎ