ドラゴンクエストⅢそして伝説へ・一人旅の勇者の冒険
ゲームを買ってきたのは兄貴だった。このゲームは兄貴の所有物だった。
弟であるおれたちは借りて遊んでいた。
おれには、兄のほかに弟がいた。おれは、弟に気軽に提案してみた。「ドラゴンクエストⅢを勇者一人でクリアしてみないか」と。弟は、喜んでそれを聞き、魔王バラモスを倒す一人旅の冒険に出かけたのだった。
手に入る経験値は四倍。勇者の成長は早い。だから、一人旅の冒険速度は、四人旅とたいして変わらないと弟はおれに報告した。
それから、おれは弟とあまり話さなかった。弟は一人で冒険していた。
弟は、まず、カンダタが弱すぎるということに気付いた。おれたち兄貴は、その友人も、カンダタはめちゃくちゃ強かったと報告していた。
だが、弟にとって、カンダタは弱かった。攻撃していれば、簡単に倒せた。
そんな弟だが、ついに冒険が壁にぶち当たる。
ヤマタノオロチが倒せない。どんなに頑張っても、HPとMPが尽きてしまう。
弟は、作戦を変え、転進する。
ヤマタノオロチをあきらめて、ボストロールへ挑んだのだ。
だが、ボストロールも強すぎて倒せない。HPとMPが尽きてしまう。
冒険に行き詰った弟は、修行を始める。敵をどんどん倒して、経験値を集める。
やがて、弟は、ベホマを覚え、喜び勇んで、ヤマタノオロチに挑戦した。
だが、いくら回復しても、倒せない。
弟も噂には聞いて知っていた。ヤマタノオロチはめっちゃくちゃ強いと。
弟は、さらに修行をつづけ、経験値を集め、ついにギガデインを覚えるまでに成長した。
弟は、ギガデインを覚えて、ヤマタノオロチに挑んだ。
ヤマタノオロチはギガデイン二発で死んだ。
弟は、とても疑問に思った。
なぜ、ヤマタノオロチのHPがあんなに少なかったのか。
弟は、ボストロールもギガデイン二発で倒した。
弟は、気付いてしまった。
ファミコン版ドラゴンクエストⅢというゲームの謎に。
ファミコン版ドラゴンクエストⅢには、バグがある。
戦闘で、敵キャラは毎ターンダメージをくらわない限り、次のターンにHPが最大値まで回復する。
だから、一ターンでも、攻撃しないターンがあると、敵キャラのHPは完全に回復し、初期値に戻る。
これが、ドラゴンクエストⅢの真相だ。
異常に強い敵ボスキャラ、カンダタやヤマタノオロチが強すぎて、その難易度の高さが逆に人気を呼んだ。
ドラクエ3を作った堀井雄二はゲーム業界一のラッキーボーイだ。
バグのおかげで、人気が出たんだ。
弟は、そのまま、バラモス城へと進軍した。
うごくせきぞうが倒せない。
弟は、うごくせきぞうから、全部逃げた。
うごくせきぞうの攻撃力とHP`だと、回復せずに倒すのは不可能なのだ。
百戦練磨の弟は、そんなことは百も承知だ。
うごくせきぞうは、ギガデインを使わなければ、倒せない。
そして、逃げて逃げて逃げまくって、弟は、魔王バラモスにたどりつく。
勇者一人旅の最大の山場だ。
弟はバラモスと戦った。
弟は、四回、ギガデインをくらわせても、バラモスが倒れなかったため、五回目のギガデインのMPが足りなかった。
バラモスのHPは、毎ターンダメージを与えなければ、初期値まで回復する。
弟は、おれに告げた。
ファミコン版ドラゴンクエストⅢは、勇者一人旅ではクリアできないと。
これが本当のドラクエ3・勇者一人旅の伝説。
バラモスに勝てなくて負けた勇者の冒険。
カンダタを回復せずに倒した勇者の伝説。
ひとつ、いい忘れたことがあった。
商人の町の商人だけは、仲間にしたそうだ。
経験値ゼロの商人。
あやふやにしか聞いていないけど、女商人だったらしい。
バラモスに戦いを挑んだ勇者のたった一人の仲間は、女商人だ。
何十年もたってやっと気付いたけど、
バラモスを倒すためには、祈りの指輪が重要だ。
祈りの指輪の使い方を工夫するのが大切だ。
と助言していた兄であるおれは、まったくの弟の役立たずだったんだなあ。
毎ターンダメージを与えつづけなければならないバラモス戦で、祈りの指輪で回復してギガデインを放っても、まったく意味がないんだ。
そのことに何十年たってからやっと気付いたよ。
弟よ。
役立たずの兄でごめん。
これが、ファミコン版ドラゴンクエストⅢの勇者一人旅の実話だ。
あのバグを解明したのは、弟だ。